今どきのヤクザは続けても辞めても大変…現役組長と元暴力団員に襲い掛かったトラブル

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

「Gは絶対に裏切らない」

 だから時折、社員たちから「G以外の売り先を開拓しましょう」と提案されていた。しかし、義理人情に厚い性分のKさんは、決してそれを許さず、「ビジネスは信頼の上に成り立つ」と言って、Gとの取引のみを続けた。

 そもそもKさんとGが知り合ったのは、Gが初めて日本に来た頃だった。Gは日本製品を母国に輸出するビジネスを日本で始めようとしていたが、ツテもなくて困っていた。それを共通の知人の縁で知り合ったKさんが、彼に営業先などを紹介して面倒を見たことが仲良くなるキッカケだった。

 Kさんの支援で日本に取引先を見つけたGは、順調に事業を拡大していった。Kさんがカタギになった際は、「昔の恩を返したい」と言い、Kさんが興した事業に全面協力したのだった。

 だからKさんは、「Gは絶対に裏切らない」という自信があった。また、Gの方は、Kさんがカタギになったとはいえ、Kさんの事務所には今でも現役の暴力団員たちが昔のつき合いで出入りしていることを熟知していたので、「Kさんとはケンカしないよ。私はバカじゃないよ」と常に尻尾をふっている様子だった。

Kさんの誤算

 こんなふたりの関係は、一見、世代も人種も超えたすばらしい友情にも見えた。

 だが、GがKさんの名前を勝手に使って、他業者に売買金額の値引きを迫ったり、時には未払いを発生させているのを社員たちは知っていた。「Gは危ないですよ」と社員たちはKさんに助言を繰り返した。それでもKさんは、「元ヤクザのオレに刃向かうわけがないだろう」と、Gとの取引関係を続けた。

 問題なのは、KさんがGを無条件に信じてしまったことではなく、「元ヤクザのオレに刃向かうわけがない」という考え方だ。この考え方は、元暴力団員で商売をしている人の特徴と言ってよく、時として「大きな失敗につながる原因」となる。それはまさに「油断」と言えた。

 社員たちの心配は的中して、GがKさんに対する多額の未払い金を残したまま音信不通となった。

 Kさんはありとあらゆるツテを使ってGのことを探したが、結局、見つからなかった。Kさんは多額の負債を背負い、会社も倒産した。Kさんは精神を病み、向精神薬に頼る生活を送るようになってしまった。

傲りと慢心

 元暴力団員の人にありがちな失敗談が、このパターンである。

 暴力団員時代の人脈を使っているのであれば、相手が誰であろうとも油断すべきではない。ところが「元ヤクザのオレに刃向かうわけがないだろう」というオゴリが、大きな落とし穴となってしまうのである。

 もし、いまだにKさんが現役の暴力団員のままだったら、復讐を恐れてGは音信不通とはならなかったかもしれない。もしくは、まだ何かしらの利用価値があると本性を隠し、Kさんとの関係を続けていたかもしれない。

 しかし、現実のKさんはもうカタギだった。Gからすれば、ダマし続けたカタギの社長のうちの一人でしかない。Gは他の社長たちと同じように、Kさんをダマしたに過ぎなかったのである。

 暴力団から足を洗って、カタギとして事業で成功する人は、ほんのひと握りかもしれない。せっかく興した事業が軌道に乗っても、元暴力団員特有の「オゴリ」と「油断」が、カタギとしての再出発を奈落の底へ引きずり込んでしまうことがある。Kさんの例がその典型である。

 せっかく、やっとカタギになった人は、ぜひ油断せずに、その後の人生を生きて欲しい。

藤原良(ふじわら・りょう)
作家・ノンフィクションライター。週刊誌や月刊誌等で、マンガ原作やアウトロー記事を多数執筆。万物斉同の精神で取材や執筆にあたり、主にアウトロー分野のライターとして定評がある。2020年に『山口組対山口組』(太田出版)を、今年8月には『M資金 欲望の地下資産』(同)を上梓。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 4 次へ

[4/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。