京都の「百寿者の町」秘密は最強の善玉菌・酪酸菌だった 高齢者の腸内フローラに驚きの特徴が

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「最強の善玉菌」と呼ばれるゆえん

 人間の体にはさまざまな細菌がすみついていますが、そのうちの9割が腸内にすんでいます。その数は、千種類以上で100兆個にも及ぶといわれ、この腸内細菌の集団を「腸内フローラ」と呼びます。

 腸内フローラは人体に良い影響をもたらす善玉菌、悪影響を及ぼす悪玉菌、さらに善玉菌と悪玉菌のうち優勢なほうに付く日和見菌の三つに大別され、善玉菌のひとつである酪酸菌が、近年注目を集めてきました。酪酸菌は、正確には酪酸産生菌といい、文字通り酪酸を生み出す菌の総称です。

 他の善玉菌である乳酸菌は乳酸、ビフィズス菌は酢酸と乳酸、そして酪酸菌はまさに酪酸を生み出します。その酪酸は、酪酸菌が食物繊維やオリゴ糖をエサにすることで生み出され、大腸のエネルギー源となり、腸内環境を保ち、改善させることに大いに貢献します。

 では、なぜ酪酸菌が注目されているのか。それは冒頭で触れたように、酪酸菌が“強い”からです。

 乳酸菌は熱や酸、抗生物質に弱く、摂取しても大腸に届くのはごく一部であるのに対し、ある種の酪酸菌はそれらに強く、そのまま大腸に届きます。つまり酪酸菌は、体内の酸などに負けて死ぬことなく、生きたままたどり着いて効率良く大腸の環境をきれいに整えたり、腸の蠕動(ぜんどう)運動を促進したりする。これが「最強の善玉菌」と言われるゆえんです。

京丹後市の男性は大腸がんリスクが低い

 こうした特徴を持つ酪酸菌に関して、私たちのコホート研究では興味深い結果が得られました。京丹後市と京都市の高齢者の腸内フローラを比較すると、「ファーミキューテス門」(F門)というカテゴリーに分類される細菌が、京丹後市の高齢者のほうが10%多かったのです。

 F門は善玉菌が多いことで知られる細菌の集まりですが、京丹後市の高齢者から見つかったF門の上位4種類は全て酪酸菌でした。このことから、京丹後の長寿の秘密のひとつが酪酸菌であると考えられるのです。

 実際、京丹後市の男性の死亡原因を全国のデータと比較すると、大腸がんリスクが20.6%低いことが分かっています。

 なお、日本における大腸がんの死亡者数は年々増えていて、人口が倍以上の米国とほとんど変わらない状況であり、2022年のがん死亡数予測では、女性のがんによる死亡原因のトップが大腸がんです。

 しかし、ここまで説明してきたことをまとめた研究論文を2019年に発表した当時、ひとつの疑義が呈されました。京丹後市の高齢者は、F門の細菌が多い一方、痩せ菌ともいわれる「バクテロイデーテス門」(B門)の細菌が少ないとの結果も出ていたからです。

 定説では、B門と比べた場合のF門の割合(FB値)が大きいほど太りやすいとされていました。つまりこの説に則(のっと)ると、F門が多くB門が少ない京丹後市の高齢者は肥満傾向が高いと見ることができる。太りやすい人たちが長寿とはこれいかに、というわけです。

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