ウクライナ軍が神風ドローンでザポリージャ原子力発電所を攻撃 いくらなんでも危険すぎる

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原子力事故が勃発すれば…

 ザポリージャ原子力発電所で稼働しているのは旧ソ連型の加圧水型原子炉だ。加圧水型は現在稼働している原子炉の主流を成す軽水炉の1つのタイプだ。ザポリージャ原子力発電所の建設が開始されたのは1980年、旧ソ連型とはいえ欧米の加圧水型原子炉とほぼ同様の安全基準をクリアしているとされている。

 軽水炉の本体は航空機が衝突してもびくともしないように設計されていることから、ウクライナ軍は「神風ドローンで標的をピンポイント攻撃すれば、放射能の流出などの深刻な事態を招くことなく、ロシア軍を無力化できる」と考えているようだが、油断は禁物だ。軽水炉には炉心の周辺で生じたトラブルを適切に処理しないと炉心溶融が起きるという弱点がある。東京電力の福島原子力発電所の重大事故も炉心本体の問題ではなく、外部電源の喪失により引き起こされたものだった。

 ロシア軍によれば、その後もウクライナ軍はザポリージャ原子力発電所への攻撃を続けており、予断を許さない状況が続いている。

 想像したくないことだが、万が一、ウクライナで戦闘が原因で重大な原子力事故が勃発するような事態となれば、その悪影響は計り知れない。

 国際エネルギー機関(IEA)は6月30日「2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を達成するためには世界の原子力発電の設備容量を現在の2倍にする必要がある」との報告書を公表した。これを実現するためには原子力への投資額を3倍超に引き上げる必要があるという。

 欧米諸国は一斉に「原子力シフト」に舵を切り始めており、日本政府も「今年の冬の電力を確保するため原子力発電所を最大9基稼働させる」との方針を示している。

 だが、ウクライナで重大な原子力事故が発生すれば、世界の人々は「原子力発電所は深刻な放射能漏れを起こす危険性がある」ことを改めて痛感することになり、原子力推進にとって「とてつもない逆風」となってしまう可能性が高い。

 現下のエネルギー危機は1970年代の石油危機時よりも深刻だ。危機を乗り切るための「切り札」である原子力を着実に推進するため、国際社会はウクライナ・ロシア両軍に原子力発電所を巡る戦闘行為を直ちに停止するよう求めるべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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