地震で沈んだ「海底都市」を発掘せよ 若き水中考古学者の驚きの日常

ビジネス IT・科学

  • ブックマーク

Advertisement

 世界の海に眠る水中遺跡を研究する「水中考古学」。これまで20カ国以上で発掘プロジェクトに携わってきた“沈没船博士”山舩(やまふね)晃太郎氏は、今年も世界中を飛び回っている。時にはワニのすむ川に飛び込み、またある時には水中ドローンに翻弄され……。最新の発掘現場の様子をインタビューでお届けする。

沈没船博士、船酔いに苦しむ

 山舩氏は今年3月に日本を出国し、7月までに、サイパン、コロンビア、アメリカ、メキシコ、フィンランド、クロアチアを仕事で回ったという。まず、上半期で印象に残った仕事を聞いてみた。

「どこの国での仕事も印象深いんですが、アメリカのサウスカロライナ州ではワニがすむ川で実測をするハメに……。その川は透明度が1mくらいまでしかないんです。つまり潜ると、水が濁っていて1m先くらいまでしか見えないということ。フッと目の前に現れる影が、一緒に潜っている仲間のものなのか、ワニなのか分からなくてとても怖かったです。現地の研究者たちは『透明度が悪いからワニからも人間は見えないし、この辺で人が襲われたのは5~6年前だから大丈夫!』と言っていましたが……」

 アメリカでは、他にも東北部にあるシャンプレーン湖で、水中ドローンを使った水中調査をしたという。

「この湖には、19世紀のアメリカ最古の蒸気船が、水深60mのとても深いところに沈没しています。すでに船体の横部分に取り付けられていたパドルが発見されています。人間が実際に潜って調査するとなると、体内にたまる窒素の量など体への負担を考慮し、数分しか現場で作業できません。ですが、水中ドローンを使えば、時間の制限も無くなります。まだまだ試行錯誤の段階ですが、新たな技術をいろいろと活用しています」

 今回は、沈没している地点の上まで船で行き、そこからカメラを付けた水中ドローンを水中に下ろし、撮影した映像をリアルタイムで船の上で観察。ただ、ここで問題が発生したそうだ。

「私は沈没船の研究者ですが、ものすごく船酔いするタチなんです。ただでさえ船酔いしている上に、ドローンが水中を動き回って撮る映像を見ていたら、ダブルで気持ちが悪くなってしまい、大変でした」

3Dモデル活用の方法にも新たな潮流が

 山舩氏の専門のひとつは「フォトグラメトリ」だ。これは、「何千枚もの写真を基に、対象物の3Dモデルを作成する手法」で、山舩氏はこの技術を活用した水中遺跡の測量や3Dモデル構築の専門家として、各国のプロジェクトに参加している。

「今年は、例年よりも『フォトグラメトリのノウハウを教えてほしい』という依頼が増え、ワークショップを各国で行っています。

 これまで、フォトグラメトリといえば『遺跡の3Dモデルを作りたい。実測図作りに役立てたい』といった声が多かったです。遺跡の3Dモデルを作成できたら、潜れない時間も研究を進めることができるため、こうした要望が多かったのです。

 ですが、ここ1年ほどは『遺跡のモニタリングに使いたい』という声が増えたと感じています。遺跡の3Dモデルを作り、風化や劣化といった経年変化をチェックすることで、遺跡保護につなげられます。依頼のこうした変化は、フォトグラメトリの有用性が考古学の世界でもより浸透してきたからこそと思います」

 ワークショップには、6~7カ国から学者が集まることもあり、「次、うちのプロジェクトに参加してくれないか」「一緒に共同研究を立ち上げないか」といったお誘いもあるという。

「実際、スイスの学者とは一緒にプロジェクトを立ち上げることになりました。海の無い国で水中考古学を?と思われるかもしれませんが、湖があります。

 スイスに限らず、モンゴルなど内陸国では、儀式の際に湖に何か大切なものを投げ入れるという風習が過去にあり、湖の底にさまざまな遺物があるんです。ただ、地元の方にとっては神聖な場所で、なかなか潜水の許可が下りません。そもそもダイビングセンターも近くにありませんから、人間が潜ろうとしたら、ダイビングの道具を現地まで持っていかなければなりません。標高が高い場所にある湖ならば、水圧の心配もあります。人間が実際に潜って調査するには、さまざまな面でハードルが非常に高いんです。そこで、持ち運びも簡単なドローンで湖の中を確認できたら、と考えています」

歴史的発見につながるかもしれない船の発掘

 今後も、年明けまでは発掘調査やワークショップの予定が盛沢山だという。

「ギリシャでは、2017年から参加しているフルニ島での発掘に参加します。著書の『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』でも、これまでの発掘の様子を描きましたが、この島の付近の海では、最も古い物で紀元前700~480年、最も新しいもので16世紀の船が、すでに58隻の沈没船が発見されています。それぞれの船は見つかった順に番号で呼んでいて、今年は『No.15』という船を1カ月かけて発掘する予定です。

 昨年、この船を試掘したところ船の木材やアンフォラ(ワインなどを運ぶための陶器の壺)が大量に見つかり、分析した結果、この船が5世紀に作られ、北海と黒海の間を南北に行き来していたものだと判明しました。

 1~2世紀の船、もしくは7世紀以降の船は、すでに世界中で沢山発見されています。ただ、3~6世紀頃の船はあまり見つかっていません。すでに発見されているものも、保存状態が良くないんです。ですが、『No.15』は砂地の中に木材が埋まっていて、とても保存状態がいい。交易の様子もまだあまり分かっていない時代の船なので、とてもワクワクしています」

水中都市で、歴史の遺物が待っている

 また、今年はジャマイカのポート・ロイヤルにも行く予だという。17世紀に栄えたイギリス最大のカリブ海入植地で、街の半分が1692年の地震で沈んでしまった「水中都市」。「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」にも登場している。

「ポート・ロイヤルには昨年も3Dモデル作成のために訪れました。その結果、史料には『地震の際に崩れた』とされていた街の先端部分にあたる砦が、海中に残っていることが判明したんです。

 ポート・ロイヤルは火山灰に埋まって街の全てが遺跡として残ったイタリアのポンペイと同じように、街がそのまま海の中に残っています。今もなお、時計や銀食器など、いろいろな遺物が残っているはずです。今年の発掘で、何が見つかるか……。楽しみにしていてください」

 山舩氏たちによる新たな歴史的発見に期待だ。

 ***

山舩晃太郎(やまふね・こうたろう)
1984年3月生まれ。2006年法政大学文学部卒業。テキサスA&M大学大学院文化人類学科船舶考古学専攻(2012年修士号、2016年博士号取得)船舶考古学博士。合同会社アパラティス代表社員。西洋船(古代・中世・近代)を主たる研究対象とする考古学と歴史学の他、水中文化遺産の3次元測量と沈没船の復元構築が専門。著書『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』では、これまで20カ国以上でプロジェクトに携わってきた発掘の様子が描かれている。

デイリー新潮編集部

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。