ペロシ訪台で浮び上る習近平のジレンマ 昔の方がアメリカに対し毅然とした態度を取っていた

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 中国の習近平国家主席は、怒りというより頭を抱えているだろう。

 アメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問し、中国は猛反発している。だがそこに、台湾に対しては厳しく出るが、当事者たるアメリカには強く出られないという習政権独特のジレンマが透けて見える。【武田一顕 ジャーナリスト/映画監督】

「玩火自焚」
 台湾問題について習は先月28日の電話首脳会談で、バイデン大統領にこう強く警告した。この言葉を読売新聞は29日付け紙面で「火遊びすれば身を焦がす」と訳していた。「身を焦がす」は広辞苑によれば、恋しい思いに苦しむ、恋い焦がれるという意味だ。中国がアメリカに恋い焦がれる? 台湾に恋い焦がれる? ……要は誤訳だ。漫画『キングダム』の嬴政は天下統一を成し遂げて始皇帝となった後、有名な「焚書坑儒」を行うが、これは儒教関連の本を焼き尽くし、儒者をすべて穴に埋めよという意味だ。だから、今回の「玩火自焚」の日本語訳は「火遊びすれば丸焼けになるぞ」「火遊びすれば滅びるぞ」などが適訳だ。非常に強い脅しでもある。

 また、王毅外相はペロシが台湾の蔡英文総統と会談する直前の3日朝、「台湾問題でちょっかいを出す者は、頭をぶつけて血を流すことになるだろう」という、これも激しい談話を発表した。談話を読むと、中国がペロシ訪問を受け入れた台湾よりも、訪問したアメリカ側に怒りの矛先を向けているのは明らかだ。

 習や王の言葉を額面どおり受け取るのであれば、中国はアメリカに対して相当な報復措置をとることになる。

 ところが、今のところ中国の対抗措置は、4日から7日まで台湾周辺6ヶ所の空海域で軍事演習を行うこと、台湾への砂の輸出を停止すること、台湾から果物や水産物を輸入しないことなどだ。同じ民族である台湾人に対するものばかり。悪の根源かのように罵っているアメリカへの対抗措置は何も発表されていない。今後、アメリカに対して経済制裁を行う、高官交流を停止する、アメリカにいる中国大使を本国に召還する、北京にいるアメリカ大使を追放するなどが具体的実質的な対抗措置として考えられるが、正直そこまでは実施しないだろう。いや、できないだろう。一足飛びに米中戦争などということも到底あり得ない。いまの国力でアメリカと軍事的に争えば、中国の敗北は火を見るよりも明らかだ。どの軍事専門家に聞いても、蒸気タービンを使用するにわか作りの中国空母「遼寧」や「山東」がアメリカの原子力空母ロナルド・レーガンに対抗できるなんて言わないだろう。

 かつての中国は今よりずっと経済力は弱かったが、アメリカに対して毅然とした態度を取っていた。

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