27年続く不倫関係、50歳を前にメンタルが壊れ始めた彼女がとった「怖すぎる行動」とは

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 不倫というものは平均してどれほど続くものなのだろうか。経験者100人を対象にしたアンケートで最も多かった答えは「1~3年」で24%だったが、「3年以上」という回答も13%あった(株式会社カケコムの2020年調査)。燃え上がった恋心がいちど落ち着き、それでもなお関係が続いていれば、そのままズルズルと……ということなのかもしれない。

 20年以上にわたって男女問題を取材してきたライターの亀山早苗氏も、同様の見解のようだ。そんな長きにわたる不倫関係を今になって後悔しているという男性に話を聞いた。

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 不倫は長続きしやすい関係である。独身同士と違って「結婚」という目標設定をしなくてすむし、共有する時間は圧倒的に少ない。一緒にいる時間が短ければ、お互いに「いいところだけ見る」ことができる。生活をともにしていないため、よくも悪くも、相手の状況によって自分の生活が左右されない。互いに自立しているなら、とてもいい関係になることもできるわけだ。

「そうですね、僕たちはあえて不倫の道を選択したからこそ四半世紀を超えたんだと思います」

 そう言うのは、正木治人さん(47歳・仮名=以下同))だ。1歳年下の陽菜子さんとのつきあいは、断続的ながら27年に及ぶ。知り合った当初は20歳と19歳。大学のサークルでの先輩と後輩という立場だった。

「ふたりとも初めての大人の恋。僕が地方出身でひとり暮らしだったので、彼女はよく来てくれました。ただ、彼女は実家住まいだったので泊まってはいかなかった。だけどあるとき、風邪で高熱を出していると心配して来て、そのまま朝まで看病してくれた。彼女は帰宅後、親にひどく叱られたそうです。あとから知ったことですが。僕は就職がうまくいかず、試行錯誤していた時期もありましたが、彼女は常に励ましてくれました。いつかは結婚して家庭を築く。それが僕らの目標だったんです」

 治人さんは29歳のとき、同い年の響子さんと結婚している。惚れ込んだ陽菜子さんとは、なぜ結婚しなかったのか。治人さんはしばらく黙り込んでいたが、重い口を開いた。

「大学を卒業しても希望する会社に就職できなかったので、就職浪人するのもかっこ悪いと思い、言い訳のように大学院に進んだんです。大学院に行ったらなおさら就職できないという声もありましたが、その場しのぎで……。理系分野で、学部時代から実験や研究は楽しかった。その流れで、じゃあ、大学院においでよと教授に言われて。陽菜子は必死に就職活動をしていた。実はそのころ、彼女は中絶しているんです」

 避妊はしていた。だがどこかで脇が甘かったのだろう、失敗した。妊娠がわかったとき、彼女は産みたいけど産めない、でも産みたいと心が引き裂かれるように苦しんでいたという。

「僕も苦しかった。だけど、今の状態で育てていけるはずもない。今回だけはあきらめよう、そして僕もちゃんと就職するから、結婚しようと彼女に言いました。彼女も納得したはずだった」

 そして陽菜子さんは無事に第一希望の会社に就職した。ところが、どうしても中絶したことへの罪悪感が消えなかったようだ。仕事に集中したくてもできない、自分だけが同期の中でいちばんできが悪いと思いこむ。悩む彼女を、治人さんは必死に支えたが、彼もまた自分の就職で頭がいっぱいだった。

陽菜子さんの運命を変えた「新興宗教」

 そんなとき、陽菜子さんは街で「自己啓発グループ」を名乗る人物に声をかけられ、ふらふらとついていってしまった。そこから新興宗教にのめり込むのに時間はかからなかった。

 彼がそのことを知ったのは、教授の紹介で、ある研究所に就職が決まったときだった。

「陽菜子がお祝いしてくれるというから、大喜びで待ち合わせのカフェに行ったら、知らない男がいたんですよ。そしてふたりで『就職おめでとう』と。いい機会だからと、彼女がその男性を紹介してくれた。でももう、雰囲気からして怪しいわけです。『治人さんも、もっと高みに行かなければ』とかなんとか。そもそも僕は宗教心も依存心もない。自分のことは自分で決める、他人にとやかく言われたくないというタイプ。だからその男を追い返して、陽菜子に『アイツはヤバい』と説教したんです。すると彼女は『私の中絶への罪悪感を、あの人たちが消してくれたの。やっと仕事に集中できるようになったんだからいいじゃない』って。悩みましたよ、僕も。だけど今、動かなければ後悔すると思った」

 彼は陽菜子さんの親に、すぐに会いたいと連絡した。両親は彼の存在は知っていたが、まだ会うには至っていなかった。

「結婚したいと思っていたこと、だけど中絶させてしまったこと、今の彼女のこと。すべて話しました。今すぐ、脱会させないと時機を逸してしまうことも。彼女の両親は最初は半信半疑で聞いていましたが、僕は自分のことを話しました。実はうちの祖母が、当時、地元で流行っていた妙な宗教まがいの教祖に騙されて、家と土地を取られたんです。結局、離婚したんですが、それによって父は大学進学もできず非常に苦労したと聞いていた。だから、甘く見てはいけないと訴えました」

 母親は「中絶なんて」とおろおろしていたが、父親は治人さんを信用してくれた。「中絶云々はまたあとで話そう。とにかく今は娘と話してみる」と言った。

「そこからが大変だった。僕もできるだけ力になろうとしたけど、僕の言うことなど聞いてくれない。結局、両親が週末に集会に行こうとする彼女を押しとどめ、彼女は暴力をふるってまで集会に行き……ということを繰り返したようです。彼女は理屈で納得すれば動くところがあるので、親戚のつてを頼って宗教学の先生に救いを求めた。その先生と話をさせ、さらには会社を辞めさせ、父親も2ヶ月間、休職して山の中の別荘を借りて暮らすことになりました。僕もそこに呼ばれて話をしたりしましたね。彼女の友人や、彼女が信頼していた高校時代の先生まで来てくれた。そうやってようやく彼女の目が覚めたんです。たかが半年ほど、その宗教団体と関係をもっていただけなのに、ものすごいスピードで彼女は入れ込んでいった。脱会して、『あのときの私、どうかしていた』と彼女が言うまでに1年近くかかりました」

 彼女がそうなったのは、中絶がきっかけだった。彼は両親から別れるよう諭された。反論することはできなかった。

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