秘蔵カセットテープに「デビュー前の松田聖子の声」が! 聖子を見出した伝説的プロデューサーが44年ぶりに再生して聴いた、驚異の歌声

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「私に気がつかないんですか」

 テープをカセットデッキに挿入、再生すると、たしかに松田聖子の声が聞こえてきた。まぎれもなく彼女の歌声だ。

「時間が経っているテープという感じが少ししますが、相当いいね。ほぼそのまま保存できていますね。歌っているのは桜田淳子の『気まぐれヴィーナス』の1番。当時、誰もが口ずさんでいたヒット曲です。オーディションで聴くのは歌が上手いかどうかじゃなくて、声の質と“表情”ですね。すっきりした、透き通った声で、“強く”歌える声。当時色々なオーディションの声を聴いていましたが、そう強く歌える子は本当に少ないんです」

「この声に、聖子が持っている資質がそのまま出ているのが分かります。自分自身をバーンと、曲にぶつけながら歌っているんですね。どなっていると言うと言い過ぎかもしれませんが、地の声でぶつかってきている。だってレッスンも何も受けてない16歳の高校生です。レッスンを積んでできた声じゃない。でもこのどなり方に、独特の資質がもう出ている。聖子の性格が表れていますね。『私はこうして歌っています。私に気がつかないんですか』って強く訴えてきている感じすらしますね」

「この勢い、強さは、たとえるならピッチャーの投げた速いストレートがパーンとミットに収まる気持ち良さのようなものです。他の出場者の声は、同じくミットに入るのでも途中ヒュルヒュルっとブレたり、かろうじて届いたりしている。音楽的に言えば、どの子も音程は取れているし、上手なんですよ。でも聖子は、持って生まれたエネルギーが違うと分かったんです。このあたりは言葉にするのが難しいですね、音楽的にも数値にできない僅かな違いなのかもしれない」

 当時、興奮した若松氏は同僚のプロデューサーにこの歌声を聴かせたが、実は反応は芳しくなく、「そんなにいいかな?」という返事だったのだという。しかし、若松氏の確信は強かった。

「私のなかのセンサーはこの歌声で振り切れてしまったんです。これは本物だなと感じました」

原石との出会い

 若松氏はテープを巻き戻すと、もう一度最初から聴いていった。

「〈プピルピププピルア〉の部分が特にいいね(注・『気まぐれヴィーナス』のスキャット部分)。少しセクシーな感じもある。声質もいい、爽やかな声なんです。そして一番いいのは彼女の心が着飾っていないなと分かることでした」

「聖子の声には、聴いた人を心地よくさせる独特の快感があるでしょう。南太平洋の青空がぱっと目の前に広がる気がする。なぜこう感じさせるかというと、彼女は歌が好きだから。歌うことが楽しいから。そして自分の歌で、みんなを楽しませたいという気持ちがあるから。それは最初の最初からそうだったんです」

「伴奏はアコーディオンの生演奏ですね。元々のテンポよりも遅めです。リハーサルでやってみて、こう変えたのかもしれない。これが良かった。だから彼女の良さが出ている。元のままだったら、ここまで出なかったかもわからない」

 伴奏が聖子に合わせた生演奏だったこと。九州大会のステージで、聖子がその才能を発揮したこと。それらが功を奏したのは間違いない。ただもうひとつ、偶然が重なっていた。それは本来、聴く必要のなかったこのテープを、若松氏が会社で再生したことだった。当時の若松氏は新米プロデューサー。何とか自ら新しいスターを見出したいと強く思っていた。

「だから全国大会が開催される前に、各地区大会のテープを持ってきてもらって聴いていたんです。出場者200人分ほどあったでしょうか。地区大会の優勝者たちが全国大会に出場してくるわけですが、1等にならないところにスターになる子がいそうだなという感触を持っていたから」

 この感触は間違っていなかった。大スターの原石と、スターを生み出したいプロデューサーはこうして出会ったのだ。そして松田聖子は、この2年後に「裸足の季節」で鮮烈なデビューを果たすことになる。

デイリー新潮編集部

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