藤井聡太が棋聖3連覇で五冠維持 “楽しそうな感想戦”で永瀬王座に見せた特別な笑顔

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感想戦に熱中

 今回、筆者は名古屋での取材を断念し、AbemaTVで観戦したのだが、感想戦の様子がもっとも印象的だった。まるで仲良しの子ども同士が夢中で遊んでいるような姿なのだ。感想戦とは、決着直後に勝者と敗者が一緒に一局を検討し合うもの。スポーツや他の勝負事ではあまり聞かない、将棋独特の風景である。

「歩では駄目だったですかね?」「そうですね」「この辺は行けると思ったんですけど」「あ、そうか」「そういう手だったんだ」「なるほど」「それは無理かと思ったんですけどね」「うーん」

 終局まで再現したのでこれで終わりかと思ったら、再び中盤に戻して検討し直していた。マスクはしていたが、時折、藤井の眼が「逆三日月」になり、腹の底から笑っていたのが窺えた。勝利で笑っているのではない。勝敗など度外視。勝者も敗者もない。とにかく、プロ入り後からの親しい研究パートナーである永瀬と戦えた幸福感に満ちていた。永瀬も悔しさを滲ませるような様子はなく、楽しそうだった。

 感想戦では高段者の立会人が「あの手はどうだったんですか?」などと声をかけたりするが、2人が熱中しきっている様子のせいか、立会人の森内俊之九段(51=永世名人資格)は声をかけにくそうだった。

 解説の郷田は映像を見ながら、「感想戦ではたがいに手の内は出さないという部分もあるのですが、2人はそんなことはなく、本当に忌憚なく、自分の考えを出し合っていましたね」と話していた。

しばらくは見られない2人の対局

 記者会見でのマスコミ向けの「笑顔」とはまた違い、感想戦の時の藤井は本当に楽しそうだった。とはいえ、藤井の感想戦がいつもそうなわけではない。

 渡辺明二冠や豊島将之九段(32)に勝利した時などは遠慮があるのか、もう少しかしこまった様子で言葉も少ない。ところが永瀬に対しては、10歳離れているものの、藤井はまったく違う表情だ。

「1、2局目は苦しい展開が続いて、厳しいシリーズだったと思います」と藤井が振り返った通り、今シリーズ、1局目が2度の千日手(同じ局面が繰り返してしまう)による「指し直し」で永瀬が先勝。2局目も劣勢からのかろうじての逆転だったのだ。

 新タイトル奪取を果たせなかった永瀬は、「王座」を守らなくてはならない。ところが藤井は王座戦の挑戦者決定トーナメントで大橋貴洸六段(29)に敗退しており、しばらくは永瀬と藤井の対局を見ることができない。そのせいか、初めてタイトル戦という「檜舞台」で相まみえた仲の良い2人は、シリーズが終わってしまったのが名残惜しくて仕方がない様子だった。

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