売上ノルマなし、帰宅は終電で… Z世代の歌舞伎町「医学部ホスト」が語る“ホワイト”な働き方

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ホストの「見栄」の恐ろしさ

 この4月に、女子中学生とみだらな行為をおこなった歌舞伎町のホストが逮捕された。“ナンバーワンホストだった”と報じられた一方で、“家賃8万円のワンルームマンション暮らし”という情報もあった。おそらく自腹を切る自前営業(自営)でナンバーを維持し、金が無かったのではないだろうか。

 歌舞伎町を走るトラックや看板に〈売り上げ1億円プレイヤー〉大々的にアピールされているホストがいる。これは「売り上げ」であり「手取り」ではない。「お金は俺が払うからお店に来てくれ」と客を呼び、実際には儲かっていないホストも多い。あるホストは「ナンバーからから外されると歌舞伎町どころか、都内の繁華街を歩けなくなる。恥ずかしくて」と言っていた。こうした事情も「自営」を促進させる要因だろう。

 ナンバーから落ちたホストは歌舞伎町ではなく、他の遠い町で働き始める。つくばエキスプレスが開通したとき、茨城県にホストクラブが乱立した。その背景には「都落ち」ホストの裏事情があるとも聞く。

 美樹は、ホストの「見栄」の恐ろしさを知っている。だからホストの仕事には「そこそこ」しか望んでいないわけだ。むしろ将来を見据えた「トレーニングの場」と捉えている節もある。

「いざ医者になったとき、老若男女、色んな患者さんを相手にしますよね。それなのに医者は一般常識を知らない人がびっくりするくらい多いんです。『オタク』が多い。専門オタクというか。はたしてそんな『世間知らずのコミュ症』に医者が務まるのか、疑問です。まぁ、看護士さんや事務方さんなど、周りのスタッフがいるから成立している場合が多いんですけれどね。自分は、コミュニケーション力を鍛えたくてホストをやっているところはあります」

「4年生になって忙しくてあまり店には出られていない」という美樹。彼の話にもあったように、現在でも“昔ながらの”スタイルでガンガン稼ぐホストはいるから、美樹のケースを「今どきのホスト」として一般化するつもりはない。

 ただ、適度にきらびやかな業界に籍を置き、そこそこの承認欲求を満たしているあたりに、現代の若者らしさを感じた(あえて意地悪な見方をすれば「ホスト」一筋に打ち込む覚悟のなさも含めて……)。極力お金を使わない、ワンメーターだけタクシーに乗るなんてもってのほか、とも美樹はいっていた。夜の街にもZ世代の風が吹き始めているのかもしれない。

酒井あゆみ(さかい・あゆみ)
福島県生まれ。上京後、18歳で夜の世界に入り、様々な業種を経験。23歳で引退し、作家に。近著に『東京女子サバイバル・ライフ 大不況を生き延びる女たち』ほか、主な著作に『売る男、買う女』『東電OL禁断の25時』など。Twitter: @muchiuna

デイリー新潮編集部

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