「保険を掛けない」藤井聡太棋聖の強さ 永瀬王座相手に棋聖防衛へあと1局

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仲の良い10歳違いの好敵手

 ファンが待ちわびる大盤解説場で挨拶した後、藤井と永瀬は対局室に戻って感想戦に臨んでいた。この2人は普段、研究仲間としても気心が知れた関係だとよく伝え聞く。将棋や自らへの厳しい姿勢から、永瀬はファンから「軍曹」のあだ名をつけられている。永瀬は藤井より10歳年長だが、藤井に対して「欲しい駒があんまりなかったんですよ」「あ、そうでしたか」「危ないかなとも思ったんですけど」……などと、しっかりと敬語を使って検討していたことが印象的だった。

 藤井は今シリーズの開始前日、兵庫県・淡路島でのファンへの挨拶で「永瀬さんは、僕が四段になった頃から練習対局でお世話になってきました」と話していた。熱心に語り合う感想戦の様子からも、好敵手でありながらも仲の良い2人の関係が伝わった。

 さて、14歳でプロ入りし驚異的な活躍を見せてきた藤井聡太も、7月19日には20歳になる。すでに始まっている防衛戦の王位戦七番勝負は7月13、14日に札幌で第2局が行われるが、第1局は挑戦者の豊島将之九段(32)が勝っている。棋聖戦は永瀬に先勝され、2局目も永瀬のペースだったが何とか勝っていた。藤井ファンにとっては少し不安もあった中での今回の棋聖戦の勝利だった。

 棋聖位は2020年7月16日、18歳になる3日前に、藤井が当時の渡辺明棋聖(38=名人・棋王)から関西将棋道場で史上最年少の初タイトルに輝いた忘れられない冠だ。

 あれから2年。「10代最後のタイトル戦」で棋聖防衛、3連覇を達成できるか。それとも永瀬が意地を見せて2勝2敗のタイに持ち込むのか。藤井が奪取、防衛含めたこの2年間のタイトル戦で、これまでフルセットにもつれたことは1度しかない。「軍曹」の根性も見ものだ。

 棋聖戦の第4局は7月17日、藤井の故郷の愛知県瀬戸市に近い名古屋市で行われる。
(一部敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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