ロシアが主導権を握りたいBRICSのアキレス腱 「良いとこ取り」で加盟ラッシュも

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はらむ「空中分解」リスク

 順風満帆に見えるBRICSだが、重大なアキレス腱がある。GDPの大きさから「中国がBRICSの主導権を握る」との論調が一般的だが、中国はインドとの間に深刻な国境問題を抱えていることを忘れてはならない。

 中国とインドの国境は約3000キロメートルに及ぶが、そのほとんどが未画定だ。

 中国はインドに対して経済を「餌」に関係改善を図ってきたが、2020年にインド北部の係争地で両軍が衝突したことを契機にその関係は急速に冷え込んでいる。係争地には計約10万人の両国の部隊が配備されたままだ。

 ここに来て事態がさらに悪化する兆しを見せている。両国を隔てる実効支配線を横切って存在するバンドン湖で、中国が戦車の走行が可能な大きな橋を建設していることが明らかになったからだ(6月16日付日本経済新聞)。係争地ではインド側も軍用車両の走行が可能な道路などの建設を進めており、今後もインフラを整備する構えだ。中国とインドの間の大規模衝突が起きるリスクが高まっていると言っても過言ではない。

 インドのジャイシャンカル外相は「中国との関係は正常でない」と主張しており、中国が主導するBRICSの拡大の動きについてもインドは難色を示している。

 BRICSには空中分解が起きるリスクが生じているが、筆者は「ロシアが今後両国の緩衝材としての役割を果たすのではないか」と考えている。

 BRICSをてこに西側諸国と対峙したいロシアは、中国とインドの間の決定的な対立はなんとしてでも避けなければならないからだ。

 プーチン大統領は「西側の制裁を受けてロシアは貿易の相手を信頼できる国際パートナーであるBRICS諸国に切り替えている」と述べたように、ロシアとBRICS諸国との貿易は今年第1半期に38%増加し、450億ドルに達した。中国の5月のロシア産原油の輸入量は過去最高となり、サウジアラビアを抜いて中国への最大の供給国となっている。

 エネルギー価格高騰の長期化が予測される中、割安なエネルギーを供給できる体制を構築することで両国の対立を緩和できれば、ロシアが今後の拡大が期待できるBRICの主導権を握ることも夢ではないだろう。

 いずれにせよ、ウクライナ侵攻後の世界の新たな秩序は、冷戦時代よりもはるかに複雑なものになるのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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