中国で「特殊詐欺の架け子バイト」をして4年半投獄された日本人の告白「取り調べ室で吊るされて自白を強要された」

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3カ月限定の闇バイト

 男性は、この35人のうちの1人だった。この拘束劇は、菅義偉官房長官(当時)の会見でも取り上げられ、菅氏は記者団に「警察庁と中国公安部の間では定期的に協議を開催して連携を図っており、引き続き日中間で捜査協力を行っていく」と語った。

 日本と中国との間では、犯罪人引渡し条約は結ばれていない。その後、彼らの動向はまったく伝えられないままであったが、そのまま中国で勾留され、有罪判決を受け収監されていたのだ。

 男性は数カ月前、4年半の刑期を終えて帰国した。名前はAさんとさせていただく。Aさんの壮絶な体験の始まりは、知人からの一本の電話であった。「中国で高収入のいいバイトがあるんだ」――。

「3カ月の短期バイトで、固定給として毎月25万円。稼いだ額の1割がインセンティブ。衣食住はタダ。パスポートの取得費用、航空券代も支給する。仕事はすべてマニュアル化されているので心配する必要はない。日本人向けの詐欺を中国でやるから、捕まるリスクは絶対ない。そんな内容でした」

楽して稼ぎたかった

 Aさんは中学を卒業後、夜の街を皮切りに、さまざまな職業を転々としてきたという。日本での逮捕歴はないとのこと。中学生の頃、一度だけ偽造カードで買い物をする闇バイトに加担した経験はある。だが、違法だとわからぬまま始めたのですぐにやめた。決して勤勉に生きてきたとは言えないものの、反社会的な行為には加担せず、真っ当に生きてきたと語るAさん。なぜこんな怪しい話に乗ってしまったのか。

「ちょうど仕事が途絶えていたタイミングで、真面目に働く意欲を失っていたんです。先々の不安もあり、楽して稼ぎたいという甘い魂胆もあった。もともと規範意識が薄く、悪いこともバレなきゃいいだろうと考えていた。ただ、積極的に詐欺をして稼ごうなんてつもりもなかったんです。電話をかけたふりをして3カ月やり過ごし、固定給だけもらえればいいと」

 話を聞いてから1カ月もたたない2017年6月、Aさんは成田空港へと向かった。ちなみにAさん、中国語はおろか英語もまったく話せない。初めての海外旅行であった。

 約3時間のフライトを経て、福建省の福州長楽国際空港に到着。空港到着後、日本にいる間から連絡を取っていた中国人男性に自撮り画像を送ると、別の中国人男性がAさんを見つけ声をかけてきた。男性の車に乗せられ、連れられていった先は、4LDKのマンションだった。

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