アイドルの「成長物語」、原点は伝説の番組「スター誕生!」だった 「完成品」より「下手な人」を選んだ阿久悠の先見性

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デビューまでを見せる手法はモーニング娘。などにも影響

山口が「スター誕生!」に登場したのが13歳で、引退が21歳。お茶の間は未熟な女の子が、大人の女性となりキャリアの大きな転機を迎えるという一代記を、8年に凝縮した形で堪能したことになる。

 酒井は、山口の成長後の戦略として「将来はシャンソンなども歌っていったらいいのではないか」と考えていた。だが彼女は、むしろ「女房」として家族のためにキルトを縫う生活を選び、結婚とともにステージにマイクを置いて一切の芸能活動を封印し、現在に至っているのはご存知の通りである。

「スター誕生!」は、1970年代を通じて絶え間なくアイドルを生み出し続けたが、その視聴率は、1978(昭和53)年に28.1%(5月7日放送、ビデオリサーチ)に達してピークを迎えると、それ以降、急速に低迷していく。特に山口の引退、ピンク・レディーの解散宣言、司会の萩本欽一の降板が重なった1980(昭和55)年以降、カメラの前でスターになる意思表示をし、必死にオーディションを勝ち抜くという熱いドキュメントの手法は少年少女の心をときめかせるものではなくなり、同番組は1983(昭和58)年に放送を終了する。

 しかし、デビューまでのプロセスを見せる手法は、その後もモーニング娘。、鈴木亜美、CHEMISTRYらがデビューしたテレビ東京「ASAYAN」、インターネット配信を中心にした日韓合同の「Nizi Project」などに受け継がれている。そして今日も、「未熟な」アイドルの成長物語をお茶の間の人々は応援し続けているのである。

周東美材(しゅうとうよしき)
大東文化大学准教授。1980年群馬県生まれ。早稲田大学卒業、東京大学大学院修了、博士(社会情報学)。大東文化大学社会学部准教授。著書に『童謡の近代』『カワイイ文化とテクノロジーの隠れた関係』(共著)など。

週刊新潮 2022年6月23日号掲載

特別読物「『お茶の間の人気者』はどう作られたか アイドル『成長物語』の原点 『スター誕生!』と『山口百恵』」より

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