埼玉県議会で自民がLGBT条例案 実は「反対87%」パブコメ結果を完全無視の内幕

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 参議院議員選挙が公示され、全国で熱い舌戦が繰り広げられる中、埼玉県議会で圧倒的多数を占める自民党会派が、今月29日にもいわゆるLGBT条例案を提出する。条例案には「何人も、性的指向又は性自認を理由とする不当な差別的取扱いをしてはならない」などの禁止条項が盛り込まれている。自民党埼玉県連は、条例案策定に反映するために「条例骨子案」を示し、事前に県民から広く意見を募集した。【椎谷哲夫/ジャーナリスト】

 ところが、今になっても、その結果は公表されていない。今回の意見募集は国の行政機関が行政手続法に基づいて行う意見公募ではないものの、公党が公募したものであり、県民からすればその意味合いは、いわゆるパブリックコメント(パブコメ)と変わらない。

 取材を重ねるうちに分かってきたのは、寄せられた意見の圧倒的多数が条例骨子案に反対という結果だった。筆者が入手した内部資料によると、今回のパブコメには4747件が寄せられ、「反対」が全体の87%近い4120件を占めたのに対し、「賛成」はわずか508件しかなかった。

 関係者によると、反対の意見を出した人の中には性的マイノリティの人も少なくなく、「性自認」という文言への疑問や、「不当な差別的取り扱いをしてはならない」などの表記に対する懸念が多く寄せられたという。

 しかし、議会に提出される条例案にはこうした声はまったくといっていいほど反映されていない。拙速を懸念する県議の意見が条例制定を急ぐ執行部に押し切られる形になったと見られ、議会最終日(7月7日)に可決される可能性が出ている。

条例案が性犯罪の温床となるおそれ 「無い」ではなく「小さい」!?

 初めに断っておきたいが、筆者は性的マイノリティへの「差別」や「偏見」は憎むべきものであると考えている。実際にLGBTの当事者である友人や知人もおり、人々の理解を進めるための法的措置自体を否定するつもりはないことも付しておきたい。

 埼玉県議会の自民党会派が議会に提出する予定の条例案の名称は「埼玉県の多様性を尊重した社会づくり条例」。内容は骨子案とほぼ同じで、「多様性に係る理解増進」という表現が「多様性を尊重した社会づくり」に変わった。

 その中で議論になっているのは、第4条の「差別的取扱い等の禁止」の中にある「何人も、性的指向又は性自認を理由とする不当な差別的取扱いをしてはならない」との規定だ。

 内部資料によると、県議団の幹部らは慎重派を説得するためもあって、パブコメで指摘された懸念に反論する“想定問答”を作成した。

「(性自認)定義が曖昧で、性自認の申告がそのまま認められると犯罪に悪用される恐れがある」などの懸念に対しては、「自己申告のあった性自認をそのまま認めなければならないという内容規範ではない」などとした上で、「条例案が性犯罪の温床となるおそれは小さい」としている。これについては、「温床となるおそれは無い」となっていないことについて不安視する声もある。

 また、「性自認」の定義については、「自己の性別についての主観的な認識を『性自認』と認定した」とする見解を示している。法務省は「性自認(性同一性)とは、自分の性をどのように認識しているのか、どのような性のアイデンティティ(性同一性)を自分の感覚として持っているかを示す概念」とホームページで定義しており、「主観的な認識」という文言までは使っていない。

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