羽生善治九段、前人未到の1500勝達成 かつて王座を奪われた福崎九段に聞いた

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「羽生さんは灯台」

 さて、羽生九段のタイトル数は驚異の99(2位は大山の80)で100まであと1つ。今後の最大の期待は、この記録とA級復帰だ。名人位の通算在位は大山の18期に比べれば少ないが、それでも9期だ。そしてタイトルに関する羽生の仰天記録が「王座」である。なんと通算24期。しかも初奪還から19期連続で保持した。

 ユニークな解説で人気の高い、関西の名棋士で十段(竜王の前身)と王座のタイトル歴を持つ福崎文吾九段(62)は、1992年に羽生に「虎の子」の王座を奪われた。

「でも、僕は羽生さんのおかげでその後、19年間も『前王座』を名乗ることができたんですよ」と今も笑わせるのだ。

 福崎は「僕は勝手に羽生さんを話のネタにさせてもらっていて、大変申し訳ないけど本当にありがたいんですよ。1500勝なんてすごいとしか言いようがない。羽生さんは人柄も素晴らしい。大谷翔平選手のような印象ですね。屈託のない性格で、国民栄誉賞なんていう威厳も感じさせない。棋士仲間で飲んだりすると、他の棋士の悪口を言ったりすることもままあるけど、羽生さんを悪く言う人だけは見たこともない」と明かす。

 そして「船が航海するとき灯台を頼るのと同じで、全棋士は灯台のような羽生さんを見て頑張っている。逆に、羽生さんは灯台のようにみんなを照らしてくれているんですよ。羽生さんとは、僕たちの中でそういう存在なんです」と尊敬する。

 羽生は記者会見で「いいスタートが切れて良かった」と好発進を喜びながらも、「長丁場なので、まだまだこれから」と話した。そして「全ての目標が終わったわけではない。将棋には進歩の余地がある。自分なりに少しでも進歩して上達していければ」、「2000局以上指していますけど、まだ知らない形がけっこうあるんだなと最近思いまして、自分なりにトライしている」、「これで終わりということではないので、変わらず前を進んで行ければいいと思います」と、その探求欲は衰えることがなかった。

 そんな羽生に福崎は「将棋も50歳を過ぎると体力的にもきつい。集中力も一瞬でも切れると(桶狭間の)今川義元のようにばっさりやられるんですよ。でも今後も、一日でも長く、強いままの羽生さんであってほしいですね」とエールを送った。
(一部敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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