羽生善治九段、前人未到の1500勝達成 かつて王座を奪われた福崎九段に聞いた

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 将棋界で数々の大記録を打ち立てた羽生善治九段(51)=永世七冠資格=は、6月16日、前人未到の公式戦通算勝利1500達成した。1985年に15歳での四段昇段、つまりプロ入りから36年5カ月、51歳8カ月での快挙。2019年に大山康晴十五世名人(故人)の1433勝を抜いてトップに立ったあと、約3年かけての金字塔だ。勝利の直後、「(1500勝は)知っていましたし、自然体で臨もうと思っていました。一つ一つの積み重ねの中で、一つ節目を迎えることができてうれしく思います。ずいぶん長く棋士をやっていたんだなあと実感しました」など淡々と語った。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

降級者同士の戦い

 羽生は昨年度、29期も連続在位した名人戦順位戦A級(10人)からB級1組(13人)に降級した。同じくA級から降級した山崎隆之八段(41)と大阪市の関西将棋会館で対局した。

 先手は山崎。互いに飛車を、先手は6列目、後手は4列目に浮かす、「横歩取り」という戦法になる。山崎は早々に羽生の玉の真上の「5三」を崩して竜を作り、さらに馬も作れる形勢。ド素人の筆者には山崎が「圧倒的有利」に見えたが、AbemaTVのAI評価値は6割程度「羽生優勢」だった。その通り羽生は落ち着いて受け、徐々に差が開く。羽生が飛車を打ち込んで取らせて「と金」を作り、山崎陣を崩してしてゆく。

 山崎の手持ちは大駒と歩ばかりで攻撃のとっかかりがない。羽生が「4一」に玉を逃がして守りの「5二歩」を打つと、ほとんどつけ込む隙がない陣形に。これに対して山崎は防御のため自陣の「2八」に打った歩が自玉の逃げ道を塞ぎ苦しい。

 中盤の54手目あたり、午後5時頃になると、評価値は「75%羽生優勢」。AbemaTVで阿久津主税八段(39)は、「後手玉は広いけど先手玉は狭い。(逃走できる範囲など)先手から見るとうまくいっているように見えて負けているような、きつい感じか」と解説した。

 順位戦は持ち時間が6時間と長く、深夜にずれ込むことも多い。この日は、毎日新聞社とともに名人戦順位戦を主宰する朝日新聞社が、午後6時から森内俊之九段(51)=十八世名人資格=の解説でライブ配信するなど報道も手厚かった。

 結局、午後9時過ぎ、羽生が9筋に攻撃の角を打つと、山崎は「参りました」。この時点では即詰みだったわけではないが、山崎には反撃の余地がなく、珍しく82手と少ない手数で投了した。

 羽生は「似たような将棋を指したこともあったので、それをベースにしました」と振り返った。敗れた山崎は「序盤からずっと苦しかった。注目の一番でしたが、形を作れず申し訳ない」と悔しがった。

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