ゼレンスキーをどこまで無条件に支援すべきか 強硬路線一辺倒に内外から出始めた異論

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 ロシアがウクライナに侵攻してから100日が過ぎた。当初は「数日又は数週間以内にウクライナの首都キーウが陥落する」との見方が一般的だった。6月になっても戦闘が続き、ゼレンスキー大統領が政権にとどまっていると予想した人はほとんどいなかった。

 米英両国から供与されていた携行ミサイル(ジャベリン、スティンガーなど)がウクライナ側の抵抗に役立ったとされているが、ロシア側にとってそれ以上に大きな誤算だったのはゼレンスキー大統領の変貌ぶりだ。

 侵攻直前のゼレンスキー大統領は支持率が低迷するなどレイムダック化しつつあり、米国も過小評価していた。侵攻開始前に開かれた米国議会の非公式会議での「ゼレンスキー大統領は歴史的抵抗を発揮できるのか。あるいは、逃避して政権を崩壊させるのか」という質問に対し、情報当局は「後者の可能性が高い」と述べたと言われている。

 ロシアの軍事侵攻が始まると首都キーウの陥落は間近だと判断した米国政府は海外に逃避して亡命政権を樹立するよう勧めたが、ゼレンスキー大統領は「今必要なのは逃亡用の車ではない。武器をくれ」と一蹴したとされている。ゼレンスキー大統領は侵攻の翌日、大統領官邸前で携帯での自撮り動画を使って国民に対し徹底抗戦を呼びかけた。その後も褐色のTシャツ姿で国民を鼓舞し続けている。

 ゼレンスキー大統領の獅子奮迅の活躍のおかげで、ウクライナは西側諸国の世論を味方につける情報戦で圧倒的に有利な状況にある。西側メディアは情報発信が稚拙なロシア側の主張を「プロパガンダ」だと切り捨てる一方、ウクライナ側の主張を重んじる姿勢を鮮明にしている。

 情報戦では優勢になっているおかげで、西側諸国では「ウクライナを断固支援すべき」との世論が盛り上がり、一時は「ウクライナが勝利する」との期待も生まれた。だが、情報戦と現実の戦争は違う。ここに来てウクライナにとって厳しい現実が明らかになっている。

フランスは「ロシア配慮」

 ウクライナ東部ドンバス地方でロシア軍が圧倒的優位となっており、「東部ドンバス地方を制圧し、クリミア半島へ陸路の橋をかける」という目標を実現しつつあるロシアは8日、停戦交渉の再開をウクライナ側に求めた。

 これに対し、ゼレンスキー大統領は「すべての占領地域の解放を達成しなければならない」と強調し、「少なくとも10倍の武器と兵力が必要だ」と西側諸国に訴えている。

 だが、西側諸国の間では侵攻が長期化するにつれて温度差が生じている。米英は軍事支援を強化する姿勢を堅持しているが、フランスなどは慎重姿勢を示し始めている。

 マクロン大統領が4日の地元紙のインタビューで「停戦時に外交を通じて出口を構築できるよう、我々はロシアに屈辱を与えてはならない」とプーチン政権への一定の配慮をにじませる発言を行った。ウクライナ側は即座にフランスの融和姿勢に釘を刺し、自らの強硬路線への西側諸国の支持に綻びが出てこないよう躍起になっているが、この戦略がいつまでも有効だと限らない。

 6月3日付フィナンシャル・タイムズは「西側諸国に漂い始めたウクライナ疲れ」と題する論説記事を掲載した。ウクライナ危機で生じた経済的打撃についての西側諸国の我慢は限界に達しつつあるからだ。

 情報戦での優勢が功を奏して西側諸国では「ゼレンスキー大統領は善で、プーチン大統領は悪だ」という勧善懲悪的な構図が定着し、ゼレンスキー大統領を批判すること自体がタブーになっている感が強いが、このような状況ではたして大丈夫だろうか。

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