日本に密入国した北朝鮮「女スパイ」 配下の男性工作員を働かせるために使った“秘密の手法”とは

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「韓国軍をかく乱せよ」

 南は4人の工作員に、京阪神工業地帯にある軍需工場の調査。岩国、呉、江田島の米海軍基地、板付など九州の米空軍基地の情報収集を命じた。青年工作員は情報を入手すると、彼女が勤めるキャバレーに来て報告したという。

「1950(昭和25)年6月に朝鮮戦争が起こると、北朝鮮から南に『工作員を韓国義勇軍に応募させ、韓国軍をかく乱せよ。同時に米軍兵士に厭戦思想を流せ』という指示が届きます」

 彼女は、50人以上の工作員を韓国義勇軍に送り込んだ。さらに工作員に、密入国した際に持ち込んだヘロインを休暇中に日本に来ていた米兵に売らせたという。

「その効果も絶大だったそうです。ヘロインで思考力が鈍り、戦線復帰を嫌がってそのまま行方をくらます米兵が続出したそうです」

 南は1954(昭和29)年まで、5年間日本で諜報活動を続けた。

「国からの評価も高く、その年の秋に帰国命令を受けました。許昌永という中年男性が後任に指名されました。ただ彼は手練れのスパイではなかったそうです。南から500グラムのヘロインを受け取った許は、あろうことか一度にヘロインを全部さばいてしまった。そのせいで福岡県警が捜査に乗り出した。許は逮捕され、彼の供述から南の名前が割れました。彼女は全国手配されたのです」

 南は福岡を離れ、神戸へ向かった。そこから北朝鮮へ帰国する予定だったが、1955(昭和30)年1月、兵庫県浜坂で逮捕された。裁判では、懲役4年の刑が言い渡されたが、刑務所を出てから彼女の行方は杳として知れないという。

勝丸円覚
1990年代半ばに警視庁に入庁。2000年代初めに公安に配属されてから公安・外事畑を歩む。数年間外国の日本大使館にも勤務した経験を持ち数年前に退職。現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活躍中。「元公安警察 勝丸事務所のHP」https://katsumaru-office.tokyo/

デイリー新潮編集部

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