同調圧力でマスク着用を続ける日本人 高齢者にリスクとの指摘も…酸素濃度の低い空気が招く病気とは

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子供が表情を学べない

 和田氏はまた、子供への影響も指摘する。

「私がいちばんまずいと思うのは、子供が母親や周囲の大人の表情、特に笑顔を見ないで育ってしまうことです。母親の笑顔を見られないと、子供は精神的に不安定になり、また、表情を見ないで育つと、コミュニケーションをとるうえで不利が生じます。母親が怒っているときの顔と、喜んでいるときの顔の違いを、言葉だけで理解しなければならないのは、望ましい状況ではありません」

 国立成育医療研究センターの調査では、小学校高学年から中学生の1~2割に、うつ症状が見られたという。これもマスク着用と関係があるのだろうか。

「その原因がマスク社会にあるのか、コロナ禍によるコミュニケーション不足にあるのか、即断できませんが、うつ気味になったとき、周囲の人たちの笑顔が見えない状況がよくないことは、間違いありません」(同)

 臨床心理士でスクールカウンセラーも務める明星大学の藤井靖准教授も、子供への弊害を実感している。

「乳幼児をふくむ低年齢の子供たちが感情を学ぶプロセスに、モデリングがあります。子供は大人がどういう場面でどういう表情をするか、まねしながら学んでいくのです。ところがこの2年半、人はどんな感情のときにどういう表情をするかといった、いままで自然に学べたことが学べていません。実際、イタリアの研究で、小学校3年生くらいまでの子供は、マスクで顔の下半分が隠れると、表情を読みとる際の正答率が半分ほどに下がる、という結果が出ています」

うつの要因の一つに

 マスクで表情が見えないことの、うつなどへの影響も無視できないようで、

「自分の感情を発散し、他者と共有することができないと、うつの傾向が強まる人が出てきます。もちろん子供のうつが増えた背景には、外出の機会の減少や運動の制限もあると考えています。たとえば東京都では、ドッジボールやバスケットボールなど、人と道具を共有する遊びは、休み時間にも体育の時間にも再開していないところも多い。ストレスホルモンを減少させる運動が制限されれば、うつなどを発症する要因の一つになるでしょう。そうした背景の一つに、マスク着用もあると考えています」

子供の成長に根本的なダメージが

 うつにまで至らずとも、子供の成長を支えるコミュニケーションに支障を来している例は多い。藤井准教授が続ける。

「子供のなかには声が小さい子や、言葉でうまく表現できない子がいますが、たとえば、教室ですれ違いざまにぶつかるなどしてトラブルに発展したとき、一方の子が“ごめんね”と言っても、マスクの影響で聞こえない。または申しわけない気持ちを顔で示していても、マスクで隠されて伝わらない。コロナ以前には問題にならなかったそんな話が、私のもとに相談としてつながってきます。大人にくらべて経験の少ない子供の間で、誤解にもとづく不和が増えてきているのだと思います」

 それはトラブルの多寡にとどまらず、子供の成長に根本的なダメージを与えてしまいかねない。

「人と協調して物事に取り組む力や耐久力、自制する力などをふくむコミュニケーション能力として、近年、非認知能力が注目されています。最近では、IQで示される学力より、生きていくうえで大事な力だと考えられていますが、海外の研究では、子供の非認知能力が、コロナ禍前を100とすると、8割くらいしか高められていないという結果が出ています。私も以前は、子供の脳は柔軟なので取り返せると考えていましたが、コロナ禍が長引いて、本当に取り返せるのか心配になってきました」

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