フェミニスト的にはアウトな「お色気漫画」 「欲望の解放」っぷりに感心(中川淳一郎)

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「週刊ポスト」に連載されている永井豪先生の「柳生裸真剣(やぎゅうらしんけん)」という漫画が滅法面白いんです。同誌の漫画は毎度毎度「男のファンタジー」をひたすら追求し、女性からすると「男ってなんでこんなバカなの……?」と思うことでしょう。

 剣豪・柳生十兵衛の人生を描く作品ですが、なんと、十兵衛が女性だったという設定です。徳川3代将軍家光の剣の指南役として小さな頃から仕えていた十兵衛。ある日、風呂に入るところを家光に見られ、女性であることがバレてしまう。その晩、男の欲望のもと、家光は閨(ねや)の十兵衛を後ろから抱き、十兵衛から蹴りをくらい失神。主人に不義理をしてしまったところから江戸を脱出する十兵衛、「脱げば脱ぐほど強くなる」という奥義「裸真剣」の達人だったのだ! 毎回全裸シーンもありますし、お供の剣士と忍者の男が風呂のぞきをして大興奮するなど、常におとぼけ要素が入っています。

 ポストの漫画は過去の「時男~愛は時空を超えて~」(国友やすゆき)では、男女がエロ行為をしている時、絶頂に達しようとする瞬間に落雷が発生し、タイムスリップをする。そして主人公の男はその時代でも絶倫ぶりを発揮し、エロしまくり。

 他にも「ドキドキの時間」(とみさわ千夏)では、主人公の漫画家の男がアシスタント志望の女性と関係を持つのですが、お相手の女性の性器が緩すぎると感じ、アソコを太くする手術を決意。その手のクリニックのタイアップ漫画かと思ったらそうではなく、続いては手術を受ける前には「診察」が必要だと女医が男の下半身を露出させ、その後はアッハーン、ウッフーンな展開に。以後、この男はさまざまな女性からモテまくる。

 なんという都合の良い展開だ!と毎度ツッコミを入れながら読んでいたのですが、私にとっては「欲望の解放」という点で、この手のお色気漫画は参考になります。とかく他人への配慮をしたり、「自粛のお願い」に従うことが求められる昨今、人々は欲望を発散したら「不謹慎だ」「社会性がない」などと叩かれまくりました。せめて漫画ぐらい……の気持ちがあるわけです。

 当然、これらの作品はフェミニスト文脈からすればホメられたものではないでしょう。だからこそ、男性向けの週刊誌で連載して女性の目に触れないようにし、発行元の小学館は自社のNEWSポストセブンにも掲載しない。

 もちろん、全裸シーンなどをYahoo!をはじめとしたポータルサイトに配信できるワケもないのですが、週に1回、お色気漫画を楽しみにしている男性諸兄に対しては、そこはかとない愛おしさを感じてしまうのです。

 少女漫画にしても、「トーストを口にくわえて『遅刻するー!』と焦りながら疾走する浩子。曲がり角でぶつかった男子生徒が『なんだよおめー!』とキレ、その後『最悪男め!』となって学校に着いたら先ほどの男は転校生だった。そして、恋愛に発展」的なパターンが過去にはあったようで、これもファンタジーです。

 性描写はさすがに少女漫画には滅多にないでしょうが、これからファンタジーも、どんどん規制される方向に行くんですかね?

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年6月2日号掲載

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