アメリカ国民にシラけムード…バイデン政権はウクライナどころではなくなりつつある

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中絶を巡る対立

 送電網の安定性を監督する規制機関である北米電力安定協会(NERC)は19日「北米の五大湖から西海岸にかけての広大な地域で今年の夏の停電リスクが高まっている」と警告を発した。新型コロナのパンデミック後に電力需要が再び伸びているのに対し、干ばつなどの影響で発電所が操業停止に追い込まれ、需給が逼迫していることが背景にある。

 米国西部は「メガドラウト」と呼ばれる過去1200年で最悪レベルの干ばつに見舞われている。米国最大の貯水池であるミード湖とパウエル湖の水位が急激に低下したため、水力発電の供給が抑制される事態となっている。

 さらに、欧州へのLNG輸出拡大のせいで国内の天然ガス価格が記録的な高値となっていることから、米国の今夏の電力価格は大幅値上げとなるのが必至の情勢だ。

 経済問題に加え、米国民の意見を二分する深刻な問題にも火が付き始めている。

 米連邦最高裁判所が女性の妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の判決を覆す可能性が高まっている。米政治サイトのポリティコが2日、同判決を覆す最高裁の多数派意見の草稿を明らかにしたところ、ロバーツ最高裁長官は「草稿は本物だ」と認めた。判決が覆れば、中絶の権利は大幅に制約を受け、全米で半数以上の州が中絶の禁止や厳しい制限に動く公算が高いと言われている。

 米国ではウクライナ危機よりもこの問題を巡る議論の方が盛り上がりを見せており、「反発する中絶支持派が抗議活動を活発化させ、今年の夏は中絶を巡る対立で暴力の嵐が吹き荒れる」との不吉な憶測が流れている(5月19日付ZeroHedge)。

 銃規制についても米テキサス州の小学校の乱射事件をきっかけにその強化を求めることが広がっているが、保守派は反対の立場を崩しておらず、対立は深まるばかりだ。

 ウクライナ危機以前の米国では「シビル・ウォー(内戦)」と言う言葉が飛び交っていたが、「中絶」や「銃」という米国を二分する大問題が再び脚光を浴びる事態となりつつある。国内が再び分断モードになれば、バイデン政権がウクライナ危機に関与する余裕はなくなってしまうのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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