猪瀬直樹氏の参院選出馬で思い出す、副知事時代からの「地下鉄一元化」はどうなったのか

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 昨年、岸田文雄総裁が率いる自民党は衆院選で絶対安定多数を確保。今夏の参院選後は、3年後まで大きな国政選挙の予定はない。そのため、参院選に勝利すれば、岸田自民党は黄金の3年間を手にするといわれる。

 自民党は、東京選挙区に芸能人としてお茶の間で人気を博す生稲晃子さんを擁立すると発表。ゴールデンウィーク期間中、生稲さんは街頭に立って支持拡大を図った。

 参院選に向けて、活動を本格化させているのは生稲さんだけではない。れいわ新選組の山本太郎代表は衆議院議員を辞職し、東京選挙区から出馬することを発表。各所で街頭演説を繰り返している。

 また、無所属での立候補ながら作家の乙武洋匡さんも東京選挙区から立候補することを表明し、都内各所を駆け回っている。

 国政へ進出を決めた都民ファーストの会からは代表の荒木千陽さんが、日本維新の会からは大阪市議会議員の海老沢由紀さんが東京選挙区からの出馬を表明。定数6の東京選挙区は、事前に無風選挙になるとの予測もあった。しかし、蓋を開けてみれば、一気に激戦区へと変貌している。

 日本維新の会は、5月26日に作家の猪瀬直樹さんの擁立を正式発表。猪瀬さんは国会議員の経験こそないものの、道路公団民営化推進委員会委員や地方分権改革推進委員会委員など国政に携わった経験を有する。

 それらの政治経験を活かして、2007年には東京都の副知事に就任。2012年には東京都知事選に出馬し、都知事選史上最大得票となる433万票で当選した。しかし、翌年に金銭問題が表面化。責任をとって辞任し、政治資金規正法の規定に基づいて5年間の公民権停止を受けている。

 猪瀬さんの参院選への立候補表明は、いわば政治への復帰戦と見ることができる。現在は作家という肩書きのためにタレント候補と見られる向きもあるが、ほかのタレント候補とは政治的な実績は段違いであることは言うまでもない。

囲み取材の思い出

 猪瀬さんが副知事・都知事時代に力を入れていたのが、東京の地下鉄一元化だ。東京では、東京メトロと東京都交通局(都営地下鉄)の2者が地下鉄を運行している。東京メトロと都営地下鉄では料金体系などが異なるなど、利用者にとって不便を感じる部分が多かった。

 猪瀬さんは2つの地下鉄事業者をひとつに統合することを目指し、2011年には『地下鉄は誰のものか』という新書まで上梓。地下鉄一元化の正当性を主張した。

 これだけを見ても、副知事時代から盛んに地下鉄の一元化に力を入れていたことを感じさせる。実際、猪瀬さんが強く要請したことで国と東京都と東京メトロが話し合う「東京の地下鉄の一元化等に関する協議会」が2010年に発足している。

 2010年8月に開催された第一回の協議会には猪瀬さんが直々に国土交通省に乗り込み、国交省職員や東京メトロ経営陣を前に持説を披歴した。

 以前から都政や交通行政を取材していた筆者は、猪瀬さんが協議会で何を主張するのかを知るために現場に足を運んだ。協議会は冒頭のみマスコミに公開で、話し合われた内容は後日にペーパーで配られる形式だったが、協議会後には猪瀬さんが囲み取材で記者からの質問に答えることになっていた。

 囲み取材では、冒頭に猪瀬さんが「読売新聞は来ているか!」と叫び、わざわざ読売新聞の記者がいることを確認した。なぜ、そんな強権的な行動に出たのかといえば、読売新聞が猪瀬さんに否定的な記事を掲載したことに起因している。

 猪瀬さんと読売新聞の因縁は、かなり昔まで遡る。読売新聞は猪瀬さんに対して盗作疑惑を指摘するなど、作家時代から険悪な関係にあった。そうした経緯から、猪瀬さんは読売新聞に対して嫌悪感を抱いていたのだろう。

 しかし、怒りの矛先を向けられた読売新聞の記者も負けていなかった。激昂する猪瀬さんに対して、淡々と反論。読売新聞の冷静な対応に、猪瀬さんもトーンダウンするしかなく、そのまま囲み取材へと移った。

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