叡王防衛の藤井聡太五冠、敗れて涙した出口六段をどんな思いで見ていたか

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

棋士の涙

 厳しい戦いに人生を賭けた棋士たち。人知れず涙することはあるかもしれないが、プロが人前で泣く姿はそう見られるものではない。「棋士の涙」で思い出すのは、2019年に豊島将之九段(32)を4勝3敗で破って46歳で初めてタイトル(王位)を獲得し、終局直後に歓喜の涙を見せた木村一基九段(48)の姿だ。

 千葉県出身の木村九段は今回、AbemaTVの解説役として「難しい将棋です」「最後までわからない」を連発しながらも、自陣から攻守を狙った9二角を評価し、「玉を相手の攻め駒に近づける怖い守り方の4二玉は、なかなか指せる手ではありません」などと出口の差し手を高く評価しつつ、わかりやすく説明してくれていた。

 3年前の木村九段は「勝者の涙」だったが、この日の叡王戦の大熱戦では「敗者の涙」。

 電脳将棋なら秒読みで焦ることもなければ涙もない。どんなにAI将棋が強くなろうが、将棋は人間同士の戦いだからこそ生まれるドラマが魅力であることを、全力を尽くして敗れ去った出口六段の美しい涙が改めて教えてくれた。(一部敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。