英米で再評価の「江戸川乱歩」「横溝正史」 なぜ今「エログロ」が必要とされるのか

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猟奇的な物語が人気に

 ともあれ、〈変態〉は〈異常〉のことであり、身体の〈正常〉に対する〈異常〉は、健康に対する病気に等しい。そして社会における病気とは〈犯罪〉にほかなりません。かくて精神を病んだ者が常軌を逸した犯罪を行う猟奇的な物語が、〈変態性欲〉や〈変態心理〉の名のもとに探偵小説として人気を博しました。

 江戸川乱歩というと、誰しも小中学生のころに読んだでしょう児童向けのシリーズ、〈怪人二十面相〉や〈少年探偵団〉、そしてもちろん名探偵明智小五郎のイメージが一般的ですが、かれが活躍した大正末から昭和初期の乱歩は、謎解き推理をメインとする〈本格探偵小説〉ではない〈変態〉、いや〈変格探偵小説〉の作家であり、エログロ・ナンセンスの旗頭と見なされていました。乱歩自身は、そのことを不快に思っていました。社会と人間の実相を虚構として語る探偵小説を新たな文芸様式と考えていたからです。

 しかしながら、長編なら『孤島の鬼』や『パノラマ島奇談』、中編では『陰獣』、短編は「人間椅子」や「鏡地獄」、「人でなしの恋」、「押絵と旅する男」、そして「芋虫」あたりの怪奇と幻想味に満ちた妖美で異形な作品を乱歩ワールドの真骨頂と考えるファンは多いようです。いずれの作品も大正デカダンス期から昭和エログロ・ナンセンス期に発表されています。

横溝正史の台頭

 エログロ・ナンセンスの時代を第1次大戦後の爛熟し頽廃したモダニズム文化の到達点とすれば、第2次大戦後の焼け跡文化――カストリ雑誌の時代は、いわばエログロ・ナンセンスの第2の黄金期でしょう。この時期に頭角をあらわしたのが横溝正史であり、かれの創造した名探偵金田一耕助が人気を博しました。

 横溝正史は乱歩より8歳年下ですが、実は作家としてのデビューは早い。「新青年」の懸賞小説に応募して入選した「恐ろしき四月馬鹿(エイプリル・フール)」(1921年4月号)が処女短編として知られています。その後は、「新青年」の編集長を務めています(1927年3月号~1928年9月号)。乱歩に〈変格もの〉の傑作『パノラマ島奇談』と『陰獣』を執筆させて編集したのは横溝正史でした。

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