松本白鸚インタビュー なぜ高熱の日に最高の演技ができたのか

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休みの日は粗大ゴミみたいなもの

 結局、キホーテのこのせりふそのままに、舞台上で役を勤めるだけでなく、僕自身がキホーテのように生きてきたということになるのだと思います。それは苦しいことでもある。しかし同時に、艱難(かんなん)も含め、人生は全て込みで面白いものだと思うんです。ですから、今年の8月で80歳になりますが、自分は今、人生がだんだんと楽しくなっている只中にいます。

 そんな僕を見てきた家内はこう言います。

「あってるんじゃない」

 つまり「ラ・マンチャの男」や「勧進帳」をやって疲れて帰ってはくるけれどいつもより元気だそうです。でも、休みの日は粗大ゴミみたいなものです。

 僕からすればそれが当たり前だと思っていたら、どうも世間ではそうではなく、逆なのだという。3歳で初舞台を踏んでから、世間の非常識を常識とする芸の世界で生きてきましたから。結局、僕は妻から常識を学び、妻に非常識を教えたということになりますね。

松本白鸚(まつもとはくおう)
1942年生まれ。3歳で初舞台を踏み、当たり役の歌舞伎「勧進帳」の弁慶役をはじめ、ミュージカル「王様と私」「ラ・マンチャの男」、テレビドラマ「王様のレストラン」など、ジャンルの垣根を越えて活躍。2005年に紫綬褒章を受章。12年には文化功労者に選ばれている。

週刊新潮 2022年5月5・12日号掲載

「初演から53年『ラ・マンチャの男』ファイナル記念『松本白鸚』インタビュー 僕の『原点』と『ドン・キホーテ』という生き方」より

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