アゾフスタリ製鉄所の封鎖は不可能 ロシア兵を恐怖の渦に巻き込む地下要塞の実態

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プーチン大統領の“負け惜しみ”

 地下に居住空間があるだけでも驚きだが、更に病院や検査施設、カフェにバー、園芸場さえも存在するという。我々の想像を遥かに超える設備のようだ。軍事ジャーナリストが言う。

「製鉄所の中に立てこもっている関係者が、メディアの取材に応じていました。印象に残ったのは、『地下シェルターを守るコンクリートの厚さは最大で7メートル』と説明していたことです。ロシア軍がアゾフスタリ製鉄所に対し、地中貫通爆弾(バンカーバスター)を使用したという報道もありました。この爆弾はコンクリートが相手だと、せいぜい7メートルしか潜り込めないのです」

 7メートルのコンクリートがあれば、地中貫通爆弾に対して全く被害が出ない、というわけではない。それなりのダメージは受けるだろう。

「とはいえ、それだけ厚いコンクリートがあるということは、敵の攻撃を想定し、できる限りの防御を計画していたことが分かります。アゾフスタリ製鉄所の地下空間には、かなりの人手、時間、そして予算が投下され、シェルターの防御能力を向上させてきたことが分かります」

 これほど堅牢なシェルターとなると、冒頭で紹介したプーチン大統領の発言も、別の読み方が可能になってくる。はっきり言えば、製鉄所内部の兵士を掃討できないが故の“負け惜しみ”という解釈だ。

髭面の意味

「これまでウクライナ軍がロシア軍を撃退してきた事例を考えると、製鉄所の地下空間に至る通路には、様々な“罠”を仕掛けている可能性があります。またウクライナ軍の狙撃兵は、ロシア軍の兵士だけでなく大物尉官も仕留めてきました。待ち伏せ攻撃にも、ロシア軍は甚大な被害を被りました。前線のロシア軍兵士も、その怖さは骨身に染みています。上官が『製鉄所の地下を攻撃せよ』と命じても、怖がって拒否しているのではないでしょうか」(同・軍事ジャーナリスト)

 本来であれば、地下に潜むウクライナ兵を攻撃するには、化学兵器が最も有効だという。

「例えばサリンであれば、空気より比重が重いので、どんどん地下に進んでいきます。ひょっとすると、地上に出る隠しトンネルが建設されているかもしれません。しかし、2000人の兵隊が一斉に避難するだけのキャパシティはないでしょう。更に地下空間には、多数の民間人も避難しています」(同・軍事ジャーナリスト)

 各国メディアの取材に応じたアゾフ大隊の関係者が、髭面だったことは興味深いという。

「ロシア軍の攻撃に耐えながら地下で生活しているのですから、髭を剃る暇も余裕もないのでしょう。ただ、化学兵器が散布された場合は、髭を剃らなければなりません。髭を伸ばしていると、防毒マスクに隙間ができてしまうからです」(同・軍事ジャーナリスト)

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