ウクライナ侵攻のせいでドイツで暴動が起きるかもしれない

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 ロシアがウクライナに侵攻して6週間が経ち、「紛争状態が長期化する」との見方が強まっている。

 欧州復興開発銀行(EBRD)は3月下旬「今年のロシアの経済成長率はマイナス10%、ウクライナはマイナス20%に落ち込む」との予測を明らかにした。EBRDの予測は「数ヶ月以内に停戦交渉がまとまり、その直後にウクライナで大規模な復興事業が始まる」ことを前提としており、ウクライナの来年のGDPは23%と大幅増となるが、経済制裁が科されたロシアはゼロ成長にとどまるとしている。

 ウクライナ侵攻が仇となり、ロシア経済は今後10年以上低迷するとされているが、世界経済も無傷ではいられない。欧州経済に甚大な損害が出ることが確実な情勢であり、中でもドイツ経済へのダメージを筆者は心配している。

 3月のドイツの消費者物価指数(CPI)は前年比7.6%上昇した(EU基準)。戦後のドイツの最悪のインフレ率は第1次石油危機時の7.8%だったが、この数字が更新されるのは時間の問題だろう。

 深刻なインフレの原因はエネルギーコストの高騰にあることは言うまでもない。ドイツはウクライナ危機以前からエネルギー価格の上昇に苦しめられていた。

ガス早期警報プログラムを策定

 ドイツでは通常、電力・ガスの契約は1年ごとに更新されるが、今年1月の見通しでは、ドイツの約420万世帯の電気料金は平均63.7%上昇し、360万世帯のガス料金は62.3%値上がりとなっていた。発電所の燃料調達コストが上昇したことや再生可能エネルギーの生産量が減少することなどがその理由だった。

 昨年末に稼働中の3つの原子力発電所の運転を停止したことも災いした。ドイツが電力価格の高騰に対処できるカードは天然ガスのみとなってしまったのだが、その矢先にウクライナ危機が勃発し、頼みの綱だったロシア産天然ガスの依存から早期に脱却せざるを得なくなった。

 その苦境を見透かすかのようにロシアが3月下旬にガス代金のルーブル払いを要求してきたことから、ドイツ政府は「ガス早期警報」プログラムを策定することを余儀なくされた。プログラムは(1)早期警報、(2)警報、(3)緊急事態の3段階になっており、早期警報が出されると危機対策本部が招集され、緊急事態になると電気の配分について政府が介入するという仕組みになっている。

 政府は国民に対してエネルギーの節約を強く呼びかけており、1970年代の石油危機を彷彿とさせる状況になってしまっている。

 エネルギー危機に直面したドイツは、電力の安定供給を優先するため「脱炭素」を先送りせざるを得なくなっている。ドイツの電力最大手RWEは3月下旬、停止した石炭火力発電所の再稼働や、停止が決定されている発電所の運転延長を検討し始めた。

 だが、欧州連合(EU)が4月上旬、追加制裁の一環としてロシア産石炭の禁輸を打ち出したために、ドイツの石炭火力発電所の一部が運転停止に追い込まれるという逆風にさらされている。

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