プーチンが国民を騙し続けるための“3条件” ロシア娘と母親、祖母の会話で浮き彫りになる違い

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GHQのプログラム

 なぜ、そういえるのかコミュニケーション理論で説明しよう。実は、これは拙著『日本人はなぜ自虐的になったのか』で、日本人が戦後なぜ自虐的になったのか、なぜ占領軍(GHQ)の実施したウォーギルト・インフォメーション・プログラム(WGIP)のマインドセット(先の戦争は悪の戦争で、日本人はそれに責任があるという)から抜け出せないのかを説明するために使用したものだ。

 ポール・ラザースフェルドというアメリカのコミュニケーション学者によれば、人を洗脳できるのは次の3つの条件がそろったときだという。

1.メディアの独占
2.チャネリング
3.制度化

 1に関して言えば、ソ連時代、メディアは完全に政府に独占され、権力にとって都合のいい情報しか流れていなかった。

 2は情報理解の回路ができることをいう。つまり、柔らかい土に水を流すと溝ができ、そのあと何度水を流しても同じ溝を流れていく。このように最初にある考えを植え付けると、他の考えを受け付けにくくなる。

 3は主に教育である。つまり、教育機関などで、長期間、制度的にある考えを教え込まれると、その考えから抜け出せなくなる。

 GHQは戦後日本に対してこの条件を満たす政策を次々と打ち出した。戦後民主主義が根付くのに貢献したともいえるが、副作用として「戦前の日本は絶対悪」といった固定観念を植えつけることとなり、そこから派生した「平和ボケ」的な思考も定着させることにつながった。今回の戦争でウクライナの自衛のための戦いと、ロシアの侵略戦争との区別ができない人は「戦争は全部悪い」という思い込みがあるからで、その起源もここにある。

洗脳はいつ解けるのか

 先ほどのロシア人の祖母は上述の条件が完全にそろったソ連時代に子供・青春期を送っている。母は、ややこれが崩れたソ連崩壊期に多感な時期を送っている。娘は崩壊後で、ソ連時代の呪縛から解き放たれている。

 つまり、ウクライナ侵略報道をSNSで得るか、テレビで得るかは大きな違いだが、それ以上にソ連時代の洗脳からどれだけ抜け出せているかが決定的な違いになっている。

 そうすると、どのような結論が導きだされるのだろう。ロシア人のうち中年以上の年代はプーチンと彼のしていることを支持し続けるだろう。若者は何かしらの事実を知っているが、プーチンに逆らったところで、打倒できるわけでもなく、かえって累が及ぶことを恐れて黙っているだろう。全体としてロシア国民はプーチンと彼のしていることを支持し続けるということだ。中国と違って選挙はあるが、前述の基本的構造がある限り、ロシア国民は変わらないだろう。

 ただし、プーチンが打倒されるといった事態が起き、洗脳の3つの条件がそろわなくなったとき、たとえばメディアの独占や制度化が崩れたときは、変わる可能性はある。

 こうしたロシアの状況を批判したり、遅れていると嗤ったりするのは簡単だ。しかし、前述の通り、日本においてもGHQによって一種の洗脳が行われ、その影響はいまだに残っていることは忘れないほうがいいだろう。今回のロシアの侵略行為を見てなお、「降伏すれば命だけは助かるかもしれない」といった根拠なき楽観論を述べる向きは、そうした影響下にあると見ていいのかもしれない。

有馬哲夫(ありまてつお)
1953(昭和28)年生まれ。早稲田大学社会科学総合学術院教授(公文書研究)。早稲田大学第一文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2016年オックスフォード大学客員教授。著書に『原発・正力・CIA』『歴史問題の正解』など。

デイリー新潮編集部

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