〈ウクライナ危機〉世界の小麦市場は大混乱でイラク発「第三次石油危機」の重大リスク

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「ウクライナ戦争」以外の懸念も…

 ロシアとウクライナ以外にも懸念材料がある。

 世界2位の小麦輸出国(世界シェアは13%)である米国の栽培地域で干ばつの影響が出るとの予測が出ている。

 小麦の大需要国である中国の今年の冬小麦の生産は史上最悪レベルだったことから、「中国が世界の小麦の買い占めに走るのではないか」との憶測が生じている。

 アラブの春の原因となった前回の小麦価格の高騰は投機マネーが退出すると元の水準に戻ったが、今回の場合はそうはいかない。小麦価格は既にアラブの春の頃の1.5倍以上になっているが、実際の供給不足が要因となっており、今後長期にわたって高値が続くとの見方が一般的だ。

 アラブの春の起点となったチュニジアでは既に深刻な経済状況が一段と悪化しており、内戦が続くイエメンでは人道危機がさらに深刻になっている。

 このような情勢から、中東・北アフリカ諸国では「ウクライナ危機は新たな抗議運動の引き金になる」との危機感が強まっており、大産油地帯である中東・北アフリカ地域の地政学リスクが今後急上昇する可能性も排除できなくなっている。

 アラブの春でカダフィー大佐が失脚したリビアではその後も政情不安が続いており、足元の原油生産量は日量110万バレルから80万バレルに減少しているが、「小麦価格の高騰で第2のアラブの春が起きる可能性が最も高いのはイラクだ」と筆者は危惧している。

 OPEC第2位の原油生産国であるイラク(日量約450万バレル)では3月上旬から食糧価格の高騰に反発するデモが既に起きている。イラクでは2019年以降、大規模な反政府デモが常態化しており、リビアのように政情不安から原油生産量が大幅に減少することが想定されるからだ。そうなれば、ロシア産原油の供給不安から1バレル=110ドル台に上昇している原油価格が、あっという間に150ドル超えになってしまったとしてもなんら不思議ではない。

 国際社会はイラク発の第3次石油危機のリスクにもっと警戒すべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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