橋下徹や玉川徹には理解不能…ウクライナ人が無条件降伏は絶対しない理由

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約束を破った占領軍

 こうして、皇室の維持という点では「国体護持」がなされた。ところが、国家神道と軍国主義の除去という点では、「国体護持」の条件は守られなかった。

 占領軍は終戦から4カ月後の12月15日に「神道指令」を出して、軍国主義の中心にあった国家神道を禁止した。国のために命を捧げれば靖国神社に神として祀られるという思想を禁止した。

 次いで、教育の場から徹底的に軍国主義を追放した。1946年2月4日、CIE(民間情報教育局)は、文部省に次のように解釈される要素を含む歴史教科書記述を削除することを命じた。

〇国民の英雄的及び一般的活動として戦争を賛美すること
〇天皇や祖国のために戦死を名誉とすること
〇人間の最高の名誉として、軍事的偉業や戦争の英雄を美化すること
〇天皇を防御し、国家発展のために、桜の花が散るがごとく人間の生命を犠牲にすること
〇天皇のために死ぬことを義務とする考え
〇天皇の勅令に対しての従属的な考え

 われわれ日本人がよく知るように、こういった考え方や価値観は戦後教育において徹底的に排斥された。そして、日本人は、「戦争を賛美してはいけない」「戦争で戦う人を英雄視してはいけない」「国のために自分を犠牲にすることはよくない」「国のために死ぬことを名誉としてはいけない」という考え方を植え付けられた。

 問題なのは、侵略戦争と自衛戦争を区別していないということだ。これは、憲法の戦争放棄条項を見てもわかるように、占領軍が意図的にしたことであって、侵略の戦争はもとより、自衛の戦争であっても、とにかく戦争はしてはいけないのだ。占領の目的が日本を自衛戦争さえできない国にすることだったからだ。

 こうして、「国体」のうち、国家神道と軍国主義は破壊された。この点ではアメリカは終戦条件を守らなかった。しかも、これは次のようなハーグ陸戦条約に違反していた。

第43条 国の権力が事実上占領者の手に移ったら、占領者は絶対的な支障がない限り、占領地の現行法律を尊重し、なるべく公共の秩序及び生活を回復確保するため、できる手段を尽くさなければならない。

第46条 家の名誉及び権利、個人の生命、私有財産ならびに宗教の信仰及びその遵行を尊重しなければならない。

 結局、日本は「国体護持」できたのかといえば、半分はできたが、残りの半分はできなかったといえる。やはり、占領されるということはそういうことだ。

亡国の民の心情を想像せよ

 無条件降伏していたなら、半分も「国体護持」ができなかったことは明らかだ。また、降伏相手がアメリカだったからよかったが、ソ連だったら、傀儡政権を作ったのち、日本人の半分ほどをシベリアに強制移住させたあと、ロシア人を入れて日本本土を支配しただろう。つまり、国を奪われていたのだ。

 こうしてみると、なぜ一部日本人が祖国防衛のために身を挺して戦うウクライナ人の行動を理解せず、批判するのかわかる。要するに彼らの歴史認識が間違っているのだ。

 彼らは無条件降伏しても別にどうということがないと思っているが、それは日本が「国体護持」の条件を獲得するために最期まで戦ったことを知らないからだ。また、日本の場合は、たまたま領土的野心を持たないアメリカに降伏したので、国を奪われずにすんだが、ウクライナ人の場合はそうはいかないということが理解できていないのだ。

 占領軍によって植え付けられたマインドセットから抜け出せていない日本人は、自衛の戦争であっても「戦争はよくない」といい、国のために戦うな、犠牲になるなといい、勝ち目がないし、無駄だから、さっさと無条件降伏すればいいという。国を奪われること、亡国の民となることがどんなことか理解していない。

 彼らはウクライナ人がおかしいという。国際的に見て、おかしいのは占領軍のマインドセットから抜け出せていない日本人の方なのだ。

有馬哲夫(ありまてつお)
1953(昭和28)年生まれ。早稲田大学社会科学総合学術院教授(公文書研究)。早稲田大学第一文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2016年オックスフォード大学客員教授。著書に『原発・正力・CIA』『歴史問題の正解』など。

デイリー新潮編集部

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