「プーチンは狂人でもナショナリストでもない」 佐藤優が読み解く「暴君」の“本当の狙い”

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プーチン独自の善と悪

 これは「制限主権論」であるともいえます。社会主義共同体の利害が毀損される時、個々の主権国家の権利が制限されることがある。いわゆる「ブレジネフドクトリン」ですが、この社会主義共同体に、プーチンの思い描くロシアが取って代わった。「ネオ・ブレジネフドクトリン」と名付けるべきものかもしれません。

 私の友人でロシアの政治学者であるアレクサンドル・カザコフが著した『ウラジーミル・プーチンの大戦略』には、以下の記述が登場します。

〈私がプーチンのイデオロギーと呼んでいるものは、あらゆる問題に答えを与えるような入念につくられた理論ではない。それはむしろ、現代世界における針路を決めるための海図となり得る、複雑な価値体系である。そして、「なにが善くて、なにが悪いのか」を見分けること――すなわち、意思決定の際に自覚的な選択をできるようにする、価値の座標システムなのである〉

 プーチンの中には独自の価値基準があって、その中に善と悪がある。これに照らした時、ウクライナがNATOに加盟しようとしたこと、またゼレンスキーが大統領になる前の出来事ですが、19年1月にキエフ府主教がモスクワ総主教庁から独立し、イスタンブールの総主教に帰属したことも、看過できない悪であると映ったわけです。

ロシアの最終目標は

 無神論を掲げたソ連のKGBに勤めたプーチンは、今ではロシア正教の信仰を受け入れています。彼にとって正教は、ロシアに不可欠なアイデンティティーの一つであり、これを擁護することを義務だと捉えている。そのためには軍事力を持ち出してでも「悪」の出現を食い止めなければ、という立場にあるのです。

 今回の軍事行動は、ロシアと事を構えない融和政権がウクライナで樹立されるまで続くでしょう。現在ウクライナの軍事施設は壊滅的な被害を受けており、これを再建できないようにした上で、マッカーサーが戦後日本で行ったように、自衛のための軍隊だけを認める。それらが達成されたのち、ロシアは手を引くのではないかと思われます。

 実効支配していた「ドネツク」「ルガンスク」の両人民共和国は、それぞれが位置する州全体を支配することになるでしょうが、ロシアが占領するとしてもこの2州にとどまり、全土には及びません。あくまでロシアに迎合した政権が「自発的」に誕生するのを待つのではないでしょうか。

デイリー新潮編集部

週刊新潮 2022年3月10日号掲載

緊急寄稿「佐藤優が読み解く『皇帝の頭の中』 野望に燃える『プーチン』本当の狙いとは――」より

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