元公安警察官は見た ロシアの美人スパイ「アンナ・チャップマン事件」の真相

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 日本の公安警察は、アメリカのCIAやFBIのように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。昨年9月に『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に12年前、アメリカで大問題になったアンナ・チャップマン事件について聞いた。

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 FBIの特別捜査員が、警視庁公安部外事課の捜査員のためにロシアのスパイの手口について講義したことがあった。

「むろんこうした講義は非常に稀なことです。ロシアの美人過ぎるスパイと言われたアンナ・チャップマンら10人のスパイがアメリカに入国。軍事機密を入手し逮捕された事件について話を聞きました」

 と語るのは、勝丸氏。かつて公安外事1課の公館連絡担当班に所属していた同氏は、大使館や総領事館との連絡・調整が主な任務だった。

「駐日アメリカ大使館内にあるFBI東京支局の支局長に、アンナ事件について興味があるので資料があったらもらえないかと打診しました。すると、アメリカから特別捜査官が来日し、事件について講義してくれることになりました」

色仕掛け

 アンナ・チャップマンらがFBIに逮捕されたのは2010年6月。特別捜査官は、その年の秋に来日した。講義を受けるため、外事課の捜査員が20人ほど集まったという。

「講義を受けたのは、身分を隠して捜査する秘匿捜査員でした。FBIとはいえ彼らは素顔を見せるわけにはいきません。みなサングラスやマスクをしていました」

 特別捜査官は、ロシアスパイの手口について講義。アンナが行っていた諜報活動の中身を具体的に教えてくれたという。

 彼女を含む逮捕された10人は外交官ではなかった。

「10人全員がSVR(ロシア対外情報庁)のスパイでした。彼らの任務は、まずアメリカの民主党でも共和党でもどちらでもいいから、国会議員と親密になることでした。ロシアに不利な法案が出ると、それを潰す工作するよう指示されています。さらに、国防総省の高官に接近し、軍事情報を入手することも命じられていました」

 特にアンナの任務は、アメリカの核弾頭開発計画の情報を入手することだった。

「彼女はアメリカ人になりすまし、マンハッタンの不動産会社の敏腕社長を演じながら、諜報活動を行っていました。色仕掛けで、国防総省の高官やそのシンクタンクの職員に接近しています」

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