「朝日杯」で菅井八段が初栄冠 藤井聡太不在で優勝者へ質疑はなしに疑問

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加古川駅の写真パネル

「藤井さんがせめて準決勝で敗けてくれれば」と藤井五冠がベスト8で敗退してしまいこの日、登場しなかったことをある主催関係者は残念がった。さらに、従来は観客を入れて壇上で戦う「公開対局」も新型コロナの影響で、昨年に続いて無観客となった。

 敗退した永瀬も佐藤も「無観客は残念。早く公開対局に戻ってほしい」と盛んに残念がった。寂しい大会になったせいか報道陣も極端に少ない。コロナ禍前の藤井が登場していた大会では100人を超えていた報道陣も、主催の朝日新聞関係者を除けば10人足らずで、筆者は当初、会場を間違えたかと思うほどだった。藤井の活躍で将棋人気が沸騰したように見えるが、本当の意味での将棋自体の人気が根付いてくれたのか、あらためて疑問に感じた。 

「棋士のまち加古川」として町おこしをする兵庫県加古川市。JR加古川駅の構内にある「加古川市ゆかりの棋士」とされた大きな写真パネルには、井上九段や稲葉八段など6人の棋士の写真が並んでいるが、菅井八段の写真はない。加古川市役所に問い合わせると「出身地と現在の居住地ということで選んでいます」との説明。菅井八段は岡山県の出身で岡山在住、加古川市には住んでいない。「せっかく加古川の井上さん門下なのにそれは杓子定規過ぎないか?」と筆者が市職員に向けると「(菅井八段をパネルに追加するかどうか)検討させていただきます」とのことだった。

優勝者への質疑もなし

 今回の朝日杯は、驚いたことに優勝者への質疑もなかった。勝手に加古川市役所に問い合わせたので、菅井自身が「岡山の棋士」を強調しているのか、振り飛車の復権に加えて、上述のようなローカルな話題も本人に聞きたかった。表彰式の司会女性が「これで朝日杯を終わります」と言ったが、AbemaTVのインタビューが終わってから当然、質疑があるかと思っていた。驚いた筆者が広報担当に「質疑は?」と訊くと「これで終わりです」。別の記者も「かこみ取材はあるはずでは?」と迫ったが「これで終わりです」。

 優勝者が藤井聡太の時は、藤井はもちろん、準決勝で敗れた羽生への質問時間もあった。無観客の会場はがらんとしており、質疑の中止はコロナの感染対策の影響だけだとは思えない。現にAbemaTVスタッフは壇上に上がって菅井を接近取材して中継していたが、記者たちは壇の下にいた。記者を集めておきながら質問もさせず、一方通行の中継だけで終わらせたかったのか。後日、主催の日本将棋連盟に訊くと「主催社の朝日新聞さんの意向ですが(質疑中止の)理由はわかりません」とのこと。いずれにせよ、藤井がいた時といない時の報道対応の大きな差には愕然とした。当然のことだが、将棋は藤井聡太だけではないはずだが。(敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

デイリー新潮編集部

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