一橋大学を卒業後、40年ほど「引きこもり」…当事者が激白 “毒母”が生み出す「高齢引きこもり問題」

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母親からの絶え間ない人格蔑視

 同じく「ひ老会」に参加している杉本遼さん(仮名)は55歳。

「自分は人間に見えるけれど、中身は人間ではない」

 杉本さんは自己紹介で開口一番、そう言った。

 昭和10(1935)年生まれの父と、昭和15(1940)年生まれの母との間に生まれた。父は大手企業のエンジニア、母は専業主婦だった。3歳上の姉と2歳下の弟がいる。

 杉本さんはイケメンで背が高く痩身、顔に皺は刻まれているものの、実年齢よりかなり若く見える。

「母親にとって僕は、鬱憤の吐き出し口、ごみ箱でした。きょうだいの中でなぜか僕だけターゲットにされた。僕には指示と否定しかない。母の前で僕はほっとする瞬間がなく、いつも喉が詰まっている感じ」

 母親から洪水のように浴びたのは否定や侮蔑、人格蔑視の言葉だった。思いつくままに杉本さんが羅列してくれた。

「いやらしい」「わざとらしい」「カッコつけちゃって」「気を惹こうとしている」「ひねくれている」「わがまま」「自分ばっかり」

 母親に甘えようとすると、「いやらしい」と言われ、料理が美味しいと口にすると「わざとらしい」。本を読もうとすれば「あんたはそんな身分じゃない、調子に乗るな」。杉本さんは母の憎々しげな口調まで、ありありと思い出す。

「僕が罪悪感を持つように、蔑むように言ってくる。僕は一度として受け止められたことも、肯定されたこともない。僕のすることすべてを母は否定した。常に母親から睨まれていて、僕には安心という経験がなかった。僕は間違ってはいけなかった。だから、母の言う通りにしないといけない」

 特に緊張を強いられたのが食事時だった。

完全無欠な“幸せ家族”

 厳格な父は、物音を立てただけで怒鳴り散らす。凍りついたような食卓を、母親がけたたましく笑って盛り上げようとするが、母親は楽しく会話ができる人ではない。

 すると「ほら、遼。楽しい話をしなさい。白い歯を見せて」と、母親からいつも道化役に指名された。

「『白い歯を見せて』と、常に強迫的に母に言われていたので、顔に表情が張り付いていました。もう気が気じゃない。盛り上げないといけないって」

 母親にとって一家は常に、“幸せ家族”でなければいけなかった。

「レストランに行っても周りを気にして、いかにうちが“幸せ家族”であるかを演じないといけなくて、母親はテンションを上げる。僕はそれに乗らないといけない。自分は幸せですと演じなければならないことに、緊迫感しかなかった」

 完全無欠な“幸せ家族”を演じるよう母親から強制されてきたが、父と母は不仲で会話もない。夫への鬱憤のはけ口とされたのが杉本さんだった。

 母親が杉本さんの目を覗き込み、脅してくるのも毎度のこと。

「あんたはね、嘘ついても、ママには絶対にわかるんだからね」

 決定的な言葉だった。

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