元公安警察官は見た ココム違反事件で逮捕された元通産官僚のあり得ない罪意識

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対ソ連専門商社を設立

 森川はクバノフの要求を受け入れ、1963年4月、全ソ工業技術輸入公団とゲルマニウムトランジスター製造設備一式(価格合計5億806万円)の輸出契約を締結した。契約を分割し、さらに商品の名称をココム規制対象品以外のものに偽装し、1964年9月から65年6月までに横浜から1回、神戸から5回に分けてソ連に輸出した。

「森川を立件できたのは、神奈川県警に進展実業の元社員がタレ込んだからです。彼は会社で数少ない大卒のエリートでしたが、なぜか満州からの引揚者が出世するので嫌気がさして会社を辞めて独立したということでした」

 1965年10月、神奈川県警は森川を外為法及び外国貿易管理法違反で逮捕した。1972年8月、横浜地裁は懲役1年2月、執行猶予2年の判決を下した。進展実業には罰金1000万円を課した。

「もっともクバノフは、森川が逮捕される前に帰国していました」

 ところが、森川はまったく反省しなかったと言われる。判決が下される直前の1972年2月、都内でソ連貿易の専門商社を設立しているのだ。電子部品製造プラント、放送局用AV機器、水産養殖設備などを輸出し、ソ連からはシシャモ、カニ、エビ、魚卵などの水産物を輸入。ソ連製ヘリコプターの日本初輸入を実現させた。クバノフとの付き合いで築いたソ連とのパイプをフルに活用したことが容易に想像できる。

 当時は大きなニュースにならなかったが、今、企業に下った役人がこんなことをしたら大問題になるに違いない。

勝丸円覚
1990年代半ばに警視庁に入庁。2000年代初めに公安に配属されてから公安・外事畑を歩む。数年間外国の日本大使館にも勤務した経験を持ち数年前に退職。現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活躍中。「元公安警察 勝丸事務所のHP」https://katsumaru-office.tokyo/

デイリー新潮編集部

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