単身赴任の妻が誕生日に若い男と浮気… 「47歳」夫はなぜ“彼女の釈明”に怒りが沸かなかったのか

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「不思議と怒りはないんだよ」

 妻は膝からくずおれた。そんな妻を見たくなかったので、光憲さんは部屋を出た。

「外に出ると、佳緖から〈20分後に戻ってきて。お願い〉とメッセージが来たんです。不思議と怒りは沸いてこなかった。ただ、目の前で見たことが信じられなかった」

 20分後、部屋に戻ると妻がソファに沈み込んでいた。男の姿はもちろんない。若い男だったねと光憲さんは言った。

「仕事で知り合った他の会社の若者。必死に仕事に取り組んでる素晴らしい子なのと佳緖は言いました。『謝るべきよね』とも。『佳緖の性格から言って、悪いと思うならやらないだろ』と言ったら、『そうなのよ。悪いことをしたと思えない。ただ、あなたにショックを与えたのは申し訳ないと思ってる』。そう、確かにショックを受けてる。このショックがいわゆる裏切り行為によるものなのか、普通は見られないものを見てしまったからなのか、わからない。佳緖が言うように不思議と怒りはないんだよと僕は言ったような気がします」

 ふたりのそれまでの関係があってこその会話だった。「もし他に好きな人ができたらどうするか」という話はよくしていたのだという。

「チームを“脱退”するなら、それはそれでしかたがないと僕は思っていたし、佳緖ももし僕に好きな人ができて脱退するなら認めざるを得ないとつねづね言っていました。だから佳緖に『チームを脱退する?』と聞いたんです。そんなつもりはまったくないと彼女は言った。『みっちゃん、私、今日、急にしたくなっちゃっただけなの』と佳緖。したくなったときに目の前に応じてくれる相手がいただけなの、と」

 尋ねてはいないのだが、その日初めて、その25歳の若者は彼女の部屋に来たのだという。そもそも彼女の誕生日を祝うパーティが会社ぐるみで行われ、二次会までいったあと佳緖さんはひどく酔った。ふだん、彼女はあまり飲まない。だが自分のために取引先の人まで含めて20人も集まってくれたため、うれしくてつい飲んでしまった。

「タクシーに乗ったまでは覚えているんだけど、彼が同乗してくれたのは記憶になくて。部屋に入って水を飲ませてもらって、少し落ち着いたら急に欲情しちゃったのよねと妻は言いました。もちろん、愉快ではなかったけど、佳緖の言い方が『お腹がすいちゃったのよね』と同じように聞こえたので、ついフフッと笑ってしまったんです」

 許すとか許さないとかジャッジをするのはなんだか違うと思うと、彼は佳緖さんに言った。佳緖さんは、うんと言ったきり深い眠りに入っていった。

「こんなときによく眠れるよなと、それは腹が立ちましたね(笑)。まあ、しかたがないので僕も佳緖の隣に潜り込んで寝ましたけど、結局、朝までうつらうつらしただけで」

 ねー、ごはん食べない? 佳緖さんの声ではっきり目が覚めた。LDKに行くと、おいしそうなサンドイッチが大皿に乗っていた。

「あなた、サンドイッチ好きでしょと言われて、うんと答えました。佳緖のサンドイッチ、本当においしいんですよ。食べながら、佳緖は僕の顔を覗き込んで、『あなたは私がどうしたらいいと思う?』と聞いてきました。『自分のことは自分で決めるしかないでしょ』と言うと、『私は今まで通りがいいの』と。『ただ、あなたが怒っているなら、その怒りを私にぶつけたほうがいいかもしれない』とも言うんです」

 一般的な「浮気発覚時」とはまったく違う夫婦の会話がそこにはあった。光憲さん自身、「なんだこれって変だよね」とつぶやいてしまった。佳緖さんも「ドラマや映画と違うね」と言った。「本人が言うな」と言ったら、佳緖さんは笑っていたという。

「僕は鈍いのかもしれないけど、やっぱり怒りはわかなかった。むしろ、間のわるいときに来てごめんねという感じ。佳緖が今まで通りというなら、僕もそれでいい。ただ、今後、佳緖への気持ちが変わる可能性はある。それはそのつど、伝えるよと言いました」

 サンドイッチを食べ終わってからふたりでゆっくり愛し合った。それでも光憲さんの気持ちの中に佳緖さんへの嫌悪感はわいてこなかった。

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