早くも五冠へ王手の藤井聡太 恩師が明かした幼い頃の意外すぎる弱点
藤井聡太四冠(19)の進撃がまた止まらない。史上4人目の五冠を目指す王将戦七番勝負の第三局は1月29、30日に栃木県大田原市で行われ、渡辺明王将(37)に快勝して開幕3連勝。新たなタイトルへあと一つに迫った。
さらに2月3日に千駄ヶ谷の将棋会館行われた名人戦に繋がる順位戦リーグ。B級1組に所属する藤井は阿久津主税(ちから)八段(39)を短い手数で下し、9勝2敗でトップを走る。この日、3敗で追う稲葉陽八段(33)が敗れれば藤井のA級昇級が決まったが、元A級棋士で名人戦も戦った経験者の稲葉が松尾歩八段(41)に勝って踏みとどまり、藤井の昇級可否は3月9日の最終局に持ち越された。
とはいえ、依然、最有力の位置にいる。昇級しても加藤一二三九段(82)の最年少昇級記録には届かず、珍しく記録にはならないが、最高峰の名人を最短で目指すことになる。藤井は阿久津を破った後、「飛車の位置がうまく定まらなかったのですが……」などといつものように反省交じりで回顧していた。
藤井のA級入りについて井上慶太九段(58)は「昇級は間違いないでしょう。とはいえ名人への挑戦権は藤井四冠といえども、そうたやすいものではないはずです」と話していた。A級には二人昇級できるが、稲葉は井上の弟子。A級から陥落して復帰した経験のある井上は藤井よりも稲葉が気になって当然だ。
そんな師弟は高槻市での王将戦第2局で大盤解説を担当していた。藤井の封じ手3五銀で始まった二日目。渡辺と藤井は角と飛車を取り合うなど、戦いは激しくなる中、藤井が66手目に飛車で王手をかけ、渡辺が6九角と受けた。これをみた井上九段は抽選に当たって来場していたファンに向かって「昼に来場していたら、もう終わっていたという可能性もなくはない」と話して驚かせた。早々と藤井の勝利を見抜いていたようだ。
2時間半の大長考
前後するが第2局の初日、渡辺が51手目に3四角を指したところで、藤井の手がぱたりと止まっていた。井上九段は「渡辺王将の3四角は勝てば勝因、負ければ敗因の一手になるかもしれない」と話した。弟子の稲葉は「1日目から決断を迫られる局面で、藤井竜王が長考してもおかしくない」と話し、次の一手について「藤井竜王が3六角とすれば、一気に終盤戦に突入しそうです。このほか、8八歩と打つのも有力な手です」と語った。藤井はその通り8八歩とした。いったん自陣を守る手だが、藤井はなんとここに2時間28分を費やした。これは藤井自身の一手として最長だ。待たされ続けて調子が狂ったわけではないだろうが、渡辺は午後4時15分という異例の早い時間に投了してしまった。深浦康市九段(49)は、「中盤まで互角だったが、渡辺三冠に少しミスが出てしまった」としている。
少し前まで「現代最強の棋士」と言われていた渡辺は2年前の夏、大阪で藤井にとって初のタイトルとなる棋聖位を明け渡し、ニュースターの初タイトルフィーバーで悔しい「引き立て役」になってしまった。その前に渡辺vs.藤井戦で大きな注目を集めたのが、2019年2月の朝日杯将棋オープン決勝。筆者はたまたまエレベーターで鉢合わせ「頑張ってください」と言った記憶がある(頷いていた渡辺だが小生のことなど知らない)。渡辺は敗北し、藤井が優勝した。
豊島将之九段(31)と違い、渡辺は藤井に対しては最初から分が悪かった。それでも「二冠は奪われたくない」の想いは強いはずだ。敗れてもいつも朗々と語ってくれる渡辺はかつて、竜王戦のタイトル防衛戦で羽生善治九段(51、永世七冠資格)に3連敗してから4連勝した伝説の持ち主でもある。この時、渡辺は永世竜王がかかっていた。
今回、崖っぷちに立つ渡辺だが伝統の王将位の4連覇がかかっている、完全な「藤井一強時代」に突入させないための「最後の砦」には、あの時のような奮戦に期待したい。第4局は2月11、12日に立川市で開かれる。
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