早くも五冠へ王手の藤井聡太 恩師が明かした幼い頃の意外すぎる弱点

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三つ子の魂

 藤井は対局後のインタビューでよく「課題が」という。

 プロ入り直後は、終盤の寄せの力を生かした逆転などが多かった反面、序盤の駒組や時間配分などに課題があるとされた。しかし、短い間に次々と克服してきた。今や「いったい、どこに課題があるのだろうか」の印象だ。それでも常に「課題」を設定して前進する若武者。

 そんな藤井は苦手な食べ物がキノコであることを公言していた。しかし、スポーツ報知記者で将棋を取材、執筆している北野新氏の取材によれば、藤井は最近、キノコを食べることにも一生懸命に取り組もうとしているそうだ。苦手なものや嫌いなものを「苦手だから、嫌いだから」と切って捨ててしまわない。そうした努力も天才を支える。

 将来キノコが大好物になるかどうかは知らないが藤井の「苦手克服」の力は凄まじい。なんといっても一昨年まで勝てなかった豊島将之からあっという間に二冠(竜王、叡王)を奪った快挙は記憶に新しい。

 そんな藤井聡太が子供の頃に将棋を教えた愛知県瀬戸市の「ふみもと子供将棋教室」の文本力雄さん(67)によれば、幼い頃の藤井は時間の短い将棋が苦手だったという。

「東海地方では、それぞれ持ち時間を決めてタイムアップになったら、どんなに優勢でも負けというルールの将棋が普及しています。時間を使い切った後の30秒の秒読み将棋もありません」(文本力雄さん)

「切れ負け」と呼ばれ、持ち時間20分とか10分などがある。文本さんは「聡太は元来、じっくり考えるタイプなので、そういう将棋では負けることも多かった。その意味では今、二日制などでたっぷりと時間のあるタイトル戦は、まさに聡太に向いていると思います。一方で、深浦さんに負けてしまったNHK杯のように、今でも持ち時間が短いのは少し苦手なのかもしれません」と語る。

 そういえば、藤井も今期の朝日杯将棋オープンでは準々決勝で敗退してしまった。これも持ち時間は短い。

 大胆に時間が使えるタイトル戦。本人にとって一手の最長時間となった2時間半などは藤井聡太の本領発揮であろう。三つ子の魂百まで。子供の頃からの恩師が見ていた「時間の短い将棋は苦手。たっぷりあると強かった」は今も藤井聡太の「真実」なのかもしれない。(敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

デイリー新潮編集部

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