AIで脳の不老不死を実現なら… 専門家が語る「ゆっくり開発」する重要性とは

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「人機一体」の世界

 テレパシー技術が確立するのは、AIが自律性を獲得するよりももっと先で、まだかなり将来のことになるでしょうが、その一歩前の段階の技術は近い将来に実現するでしょう。具体的には、ある人の脳の活動を専用の装置を使うことによって読み取り、それをはっきりと言語化はできないものの、AIによって画像のような形でアウトプットする。そしてその画像から、その人が何を考え、どう思っているかが大体分かるようになる。犯罪捜査の取り調べなどでの活用というベネフィットが期待される一方で、思想傾向や信条が自分の意図とは関係なく勝手に読み取られてしまう、「マインド・リーディング」という非常に大きなリスクが発生します。

 これが思想統制などに悪用されると、人間の自律性がAIに侵害されることになる。その時、人と機械、すなわち人間とAIの境目は極めて曖昧になり、「人機一体」の世界に近づきます。

 実際、私たちの日常にはすでにマインド・リーディング的な技術が組み込まれています。ネットを利用する時、検索履歴をもとに広告が表示されますが、これはある意味ではマインド・リーディングです。今はまだこの程度で済んでいるとも言えますが、テレパシー、専門用語で言うところの「ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)」に発展した時、人間の自律性の侵害は深刻に考えなければいけない問題となります。

便利さは「ウェルビーイング」と言い切れるのか

 そもそもAIを含め、科学技術は何のために存在すべきなのか。それは人間が心身ともに満たされる「ウェルビーイング」のためです。しかし、果たして今のAI開発は「ウェルビーイングのため」と言い切れるのか。消費者である我々と、技術やサービスを提供する企業・製作者側がある種“結託”して、目新しさと利便性だけを追求し、イケイケどんどんで目先の利益ばかりを得ようとしているとは言えないでしょうか。

 新しい技術が登場した際に、「画期的」「革新的」と誉めそやしたくなる気持ちは分かります。しかし、その目新しさや利便性は、我々のウェルビーイングを本当の意味で高めているのか、冷静になってよく考えてみるべきだと思うのです。

 今はスマホですぐに情報が手に入ります。しかしその結果、「情報の価値」は低くなっているのではないか。ようやく届いた手紙でやっと情報を手に入れた時の価値やありがたみ、しみじみとした感じは失われたように思えます。

 もちろん、価値は時代とともに変わっていくものですから、一概にどちらが良いとは言えません。大事なことは、新しい技術を手に入れた一方で、失ったものもあるのではないかと思いを馳せることです。単純に「便利さや目新しさ」=「ウェルビーイング」と言うことはできない。

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