AIで脳の不老不死を実現なら… 専門家が語る「ゆっくり開発」する重要性とは

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「ゆっくり開発」の重要性

 現状、AI開発は地球温暖化と似たような問題を抱えていると言えます。産業革命以降、目先の技術開発を追求し続けてきた結果、我々自身の存続すら危ぶまれかねない、取り返しのつかない危機を迎えつつある。AIに関しても、目の前の利益、すぐ先の利便性だけを求め、都合の良い技術を開発していけば、同じような深刻な事態になる。AIはITの一分野などでは到底なく、全く次元の違う話なのです。

 その点を踏まえて考えると、AI開発において大事なのは、ゆっくり進めることだと思います。10年かけて開発できるところを、あえて100年かけて開発する。なぜなら、AIの開発のスピードに、対抗策の開発も、倫理的、道徳的議論も追いついていけていないからです。

 人間とAIが融合し、人機一体となった世界が人間にとって幸せなものなのか。そもそも人機一体なのですから、「人間にとってのウェルビーイング」という概念も崩れる。我々に、その世界を生きる準備や覚悟、心構えができているとは思えないのです。

 ちなみに、私は携帯電話を持っていません。それが私にとってのウェルビーイングだからです。つまるところ、開発が進むAIの技術に関しても、自分にとって「目新しく便利なもの」に過ぎないのか、それとも「ウェルビーイングなもの」なのか、各々が考えていくしかない。まさかその判断まで、AIに任せるわけにはいかないはずです。

信原幸弘(のぶはらゆきひろ)
東京大学名誉教授。 1977年、東京大学教養学部卒業。筑波大学哲学・思想学系助教授などを経て、東京大学大学院総合文化研究科教授に。認知科学、科学哲学、心の哲学を専門分野とし、人間の心と脳の関係を探求し続けている。著書に『心の現代哲学』『考える脳・考えない脳』等がある。

週刊新潮 2022年2月3日号掲載

特集「植物状態でもコミュニケーション 『テレパシー』技術開発が進む『AI』と向き合う」より

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