患者数400万人「軽度認知障害」過度に恐れるのは… 診断されたらどう過ごせばいい?

ドクター新潮 医療 認知症

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 最近、もの忘れがひどくなってきたのは認知症になりかけている証なのだろうか。そう悩んで病院を訪れると、「軽度認知障害」の診断が下されることがある。その患者数、実に400万人。50代で気にし始める人もいるそうだが、過度に恐れるのは逆効果だという。

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〈今や日本における患者数が400万人にも及ぶMCI(軽度認知障害)をご存じだろうか。罹患しても日常生活にほとんど影響がないとされるが、年間1割前後の患者が認知症に移行するとの推計があると聞けば看過できない。しかも、その兆候は50代から現れ始めるともいわれる。

 1月6日、米ワシントン大などの研究チームが英医学誌「ランセット」の姉妹誌に、世界の認知症の患者数が2019年の5700万人から50年までに1億5300万人、つまりは約3倍になるとの推計を出して議論を呼んでいる。

 世界有数の長寿国となった日本でも、老いとともに発症するリスクが高くなる認知症への備えは、誰しも避けては通れない。“軽度”という名を冠するとはいえMCIもまた認知症の一種のように聞こえるが、そもそもどんな病気なのか。具体的な症状や治療法、そして日常生活を送る上で予防する術はあるのだろうか。

 認知症治療の権威で、日本認知症ケア学会の理事長でもある東京慈恵会医科大学の繁田雅弘教授に尋ねてみたところ、驚くべき実態が見えてくるのだった。〉

診断されても病的な状態とは限らない

 MCIとは「認知症のリスクが高くなった状態」、あるいは「認知症の疑いが生じた段階」と定義することができます。こう聞くと、多くの人たちは「認知症になりかけている」と思ってしまい、「どうすればいいのか」と焦るのではないでしょうか。

 ここで確認しておきたいのは、まずMCIと診断されても病的な状態とは限らないということです。専門医であっても診断が難しく、曖昧なものであるという前提があることを知っていただければと思います。

 誤解を恐れずに言えば、医師によっても診断にバラつきが出ますし、多少記憶力が落ちたように感じたり、仕事で不手際が続くといったことで検査を受けた患者さんが、一度の認知機能テストの成績が悪かっただけで、MCIと診断されることもあります。

 またMCIと診断されたからといって、必ず認知症に進展するかどうかは断言できません。最終的には認知症にならなかったという人もいますし、1、2年後には自然と症状もなくなり、もの忘れをしなくなった例もある。残念ながら認知症を発症する人が何割かいることは事実ですが、MCIと診断された患者さん全員が、“認知症に片足を突っ込んでいる”とはいえないのです。

〈この記事に目を通している読者の中には、すでにMCIと診断された方や、ここ最近もの忘れがひどくなってきたと心配する方もいるのではないか。身内に認知症の疑いがあり、不安を抱えている方もいるかもしれない。

 そのような方々に対しても、繁田教授はMCIを過度に恐れるべきではないとの立場から、こう話すのである。〉

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