離婚したいが相手の顔を見たくない…離婚調停のウェブ会議導入に賛否両論

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同じ建物に入ること自体が恐怖

 都内在住の北上尚志さん(仮名・55歳)も、できるなら妻と顔を合わせず離婚したいと考えている一人だ。

 妻からの精神的DVに悩んで二十数年。心療内科にかかるほど心を病み、もう一緒に暮らせないと離婚を切り出した。妻が離婚に応じなかったので、北上さんは3年前、子どもが成人したのを機に家を出た。2年間の別居を経て、昨年、離婚調停を申し立てた。

「調停が行われる家庭裁判所では、別々の待合室が用意されるなど、双方が顔を合わせないような配慮がされていましたが、私にとっては妻と同じ建物に入ること自体が恐怖でした」(北上さん)

 駅で会ったらどうしよう。ロビーで会ったら? エレベーターが一緒になったら? 実際、相手と出くわしてしまって嫌な思いをしたという経験者の声は多い。北上さんは、自分もそうなるのではと考えるだけで動悸がした。

「調停最終日だけは同じ部屋に入らざるを得ず、正直、血の気が引く思いでした。できるだけ目に入らないように、そっぽを向いていました……」(北上さん)

最後に顔を合わせられてよかった

 全面ウェブ会議導入のメリットはそれだけではない。調停を起こす場所は、申し立て人の住所地を管轄する家庭裁判所と定められている。別居先が遠方になった場合、交通費や移動時間がかかるというデメリットもこれまではあった。

 一方で、ちゃんと相手の顔を見て話し合いたいと考える人もいる。離婚を切り出された側だ。突然のことで戸惑い、話し合いたいと考える人は多い。

 大島理奈さん(仮名・39歳)は、嫁いだ先が農家で大家族。元夫との仲は悪くなかったが、姑も小姑も完全同居という生活スタイルに馴染めず、13年前に離婚した。

「うつ状態になり、しばらく実家に戻っていたら、元夫側から離婚調停を起こされたんです」(大島さん)

 相手側の離婚したいという意思は固く、大島さんも最後は同意した。3~4回の期日を経て、いよいよ最終日。裁判官が意思確認し、夫婦で一緒に離婚届を出しに行った。憎み合って別れるわけではない。でも、同じ人生を歩んでいくのは難しい。最後は双方納得のうえでの離婚だった。市役所に向かう車の中で、一緒に暮らした3年間を思い、なんとも言えないしみじみとした気持ちになった。

「最後に一度、顔を合わせられてよかったな、と思いました。気持ちに区切りがついたんです」(大島さん)

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