経済力の学力格差を乗り越える「読書」の力とは 「経済格差」「遺伝」より「本のある環境」が影響

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まずは親が書物に親しむ

 もし親自身に読書習慣が欠けている場合には、自らが書物に親しむように努力することも必要だろう。子どもは知らず知らずのうちに親をまねるものであり、そうしたモデリング効果の存在は心理学でも実証済みである。ゆえに、子どもに要求するよりも、親自身が身をもって示すほうが効果的であり、それこそが世代間伝達の重要な一側面ともいえる。子どもに絵本を与える場合も、絵本を身のまわりに置いておくのはもちろんのこと、ときには一緒に絵本を見たり、読んであげたり、描かれている人物や動物を指差しながら会話を楽しんだりするのも、絵本への関心を高めるのに効果的だろう。

 親自身がこのようなことを踏まえておけば、たとえ社会経済的地位や学歴にハンディがあっても、世代間伝達の環境要因を用いて子どもの学力向上を支援することができる。格差社会を乗り越えるためにいかに読書が効力を持つかをわかってもらえただろうか。

 もちろん子ども自身の持って生まれた個性もあるから、いくら環境づくりに腐心したところで、空振りに終わることもある。たとえ無駄に終わるかもしれないにしても、子どもを持ったからには、その子の将来の可能性を広げるためにできるだけのことをするのは親としての義務であろう。しかも、読書が効果を発揮する可能性が大きいことは明らかなのだから。

榎本博明(えのもとひろあき)
心理学者。心理学博士。1955年、東京都生まれ。東京大学教育心理学科卒業。大阪大学大学院助教授等を経てMP人間科学研究所代表。著書に『読書する子どもは〇〇がすごい』『ほめると子どもはダメになる』『イクメンの罠』など。

週刊新潮 2022年1月20日号掲載

特集「あらゆる調査で『力』を実証 『経済力の学力格差』を乗り越える方策は『読書』」より

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