経済力の学力格差を乗り越える「読書」の力とは 「経済格差」「遺伝」より「本のある環境」が影響

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遺伝だけでなく環境要因が影響

 このように見てくると、子どもの頃から絵本や本に親しむことが学力につながっていくのがわかるだろう。そこを工夫すれば経済格差を学力格差につなげないようにすることができるわけだ。読書の力を利用して、子どもの教育環境を整えていくのである。

 言語能力が高い子の場合、親の言語能力も高い事例が多いことから、言語能力は遺伝によって決まるのではないかと思われがちだが、行動遺伝学的研究により言語能力には家庭環境の影響が大きいことがわかっている。子どもが親に似るのは、遺伝によるだけではない。子どもにとって親というのは、遺伝要因であると同時に最大の環境要因でもあるのだ。

 親の社会経済的地位や学歴は、家の蔵書数にも影響するだろうし、図書館や博物館・美術館などの文化施設に連れて行く頻度にも影響するだろうし、親自身の読書や勉強に取り組む姿勢にも影響するだろう。親が日常のやりとりで用いる語彙の豊かさや乏しさも、世代間伝達を担う環境要因の一種といえる。このような要因が経済格差と子どもの学力格差の関連の背景に潜んでいるわけだ。

 世代間伝達というと、遺伝の力を思い浮かべて、どうにもできないことのように思いがちだが、このような世代間伝達における環境要因に目を向ければ、やりようによっては子どもの言語能力の向上をいくらでも促すことができるとわかり、工夫や努力の方向性も見えてくるはずだ。

 環境面での世代間伝達について考えていくと、たとえば読書好きな親の姿勢や蔵書の多さが子どもの読書好きを生んだり、反対に読書に興味のない親の姿勢や蔵書の乏しさが子どもの読書嫌いを生んだり、知的好奇心の強い親の姿勢や行動パターンが子どもの知的好奇心の強さをもたらしたり、反対に知的好奇心の乏しい親の姿勢や行動パターンが子どもの知的好奇心の乏しさを生んだりする。そうした世代間伝達を念頭に置いて、子どもの言語能力の発達を促進する方向に環境を整えていくことが大切である。

学歴や収入が低くとも蔵書数が多ければ学力が高い

 2017年度に文部科学省によって実施された全国学力・学習状況調査の結果と、その対象となった小学6年生および中学3年生の子どもたちの保護者に対する調査の結果を関連づける調査報告書がある。それをもとに、家庭環境と子どもの学力の関係について検討することで、蔵書数の多い家庭の子どもほど学力が高いことがわかっている。

 だが、蔵書数は親の社会経済的背景と関係しているのではないかというのは、だれもが思うことのはずだ。データを確認すると、やはり社会経済的地位の高い親の家庭ほど、つまり学歴や収入が高い親の家庭ほど蔵書数が多くなっている。ところが、社会経済的背景要因を抜きにしても、家庭の蔵書数と子どもの学力は関係していたのである。

 つまり、学歴や収入の低い層でも、高い層でも、それぞれの層の中では、蔵書数が多い家庭の子どもほど学力が高いという傾向が見られたのだ。たとえ裕福でなくとも、どんなに貧しくても頑張って親が本を買ったり図書館で借りたりして読んでいる家庭ほど、それに応じて子どもの学力が上がっているわけである。

 たとえば小学6年生では、蔵書数が0~10冊の家庭の子どもよりも11~25冊の家庭の子どもの方が学力が高い。それよりも26~100冊の家庭の子どもの方が学力が高い。101~200冊の家庭の子どもの学力はさらに高い。そして、201~500冊の家庭の子どもはそれ以上に学力が高く、501冊以上の家庭の子どもの学力が最も高くなっていた。蔵書数というのは親の読書に対する姿勢の表れといえるが、蔵書数ひとつ見ても、家庭の文化的環境が学力に与える影響がいかに大きいかがわかるはずだ。

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