経済力の学力格差を乗り越える「読書」の力とは 「経済格差」「遺伝」より「本のある環境」が影響

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読書量が多いほど読解力が高い

 本を読むということは、多くの言葉に触れることでもある。ゆえに、読書によって多くの言葉に触れている子と、読書をあまりせず言葉に触れる機会の少ない子では、獲得している言葉の数が違って当然といえる。言葉をたくさん知っていれば本を何の苦もなく読むことができるが、言葉をあまり知らなければ本を読むのに苦労する。そこに読書と語彙力の相互作用が生じる。

 文章を理解するには、語彙力とともに読解力も求められる。言葉をたくさん知っている方が文章を理解しやすいが、文脈を読み取る力もないと文章の意味を十分理解することができない。

 この読解力についても、読書量が多いほど読解力が高いことが多くの調査研究によって示されている。小学生の読解力に関しても、読書量がそれを規定していることがわかっている。自分では本を読めない幼児期における親による読み聞かせも、小学校に入ってからの読解力を高めることもわかっている。そして、小中学校時代の読書量が大学生になってからの読解力に影響していることも示されている。

 さらには、小学生を対象とした調査研究などで、語彙力が読解力につながり、読解力が語彙力を高めることが示されている。語彙が豊かであれば文章を理解しやすく、文章を理解する力があれば、わからない単語の意味も文脈から推測することで新たな語彙を獲得していくというように、語彙力と読解力の間には相互促進的な作用が働いているということだろう。

 こうしてみると、幼い頃から読書習慣を身に付けることが、格差社会を乗り越えるための手段として有効といえそうだ。

幼稚園入園時の語彙力は後の語彙力、読解力に影響

 以上のように読書によって語彙力や読解力が高まることが実証されているが、幼い頃の語彙力や読解力の差は、その後もなかなか解消されないようだ。たとえば、小学校1年生の時点における語彙力の差は6年生になってもほぼそのまま残ることを示すデータもある。さらには、幼稚園入園時の語彙力が下位4分の1に入る子は、小学校6年時までには同学年の平均的な子より語彙力も読解力も3学年分遅れることを示すデータもある。

 そこには読書と語彙力・読解力の相互作用が働いているとみることができる。つまり、よく本を読む子は、語彙力や読解力が高まるため本を読むことが苦にならず、読書を楽しむことができる。それによって、ますます語彙力や読解力が高まり、読書好きになっていく。一方、あまり読書をしない子は、語彙力や読解力が乏しいため本を読むことが苦になり、あまり読書を楽しめない。その結果、なかなか語彙力も読解力も高まらず、読書嫌いになっていく。

 そのことが学力格差につながっていく。すなわち、読書によって語彙力や読解力が高まっていけば、各教科の教科書や先生の解説の内容を理解できるため、教科内容がよくわかり、勉強が楽しくなるし、成績が向上する。一方、語彙力や読解力が乏しければ、各教科の教科書や先生の解説の内容がなかなか理解できないため、教科内容がよくわからず、勉強が苦痛になり、成績は向上しにくい。

 こうして、読書を楽しみ語彙力・読解力を高めるとともにさまざまな知識・教養を身に付けていく子と、あまり読書をせず語彙力・読解力が乏しく知識・教養が身に付きにくい子に分かれていく。

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