日本兵が戦地に携行した「寄せ書き日の丸」が“返還ラッシュ”の理由 遺族と返還者が感じる“癒やし”

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激流の中で還流の意味

 新型コロナ・パンデミックは世界を一変させた。

 だが悪いことばかりではなかった。何とコロナ禍において、オボン・ソサエティに持ち込まれる旗の数は激増したというのだ。

 今は3日に1枚のペースで日本の遺族の元へ戻ってきている。

「アメリカのガレージカルチャーの結果だよ」

 フレッド・ジュニアの息子ブライアンが言う。

「祖父は物を捨てない人だったから」

 奇しくも、相次ぐロックダウンや行動制限によって、自宅で過ごす人が多くなり、これを機にガレージを整理しようと思い立つ人が増えた。その結果、父や祖父の遺品の中から寄せ書き日の丸が見つかるケースが急増したのだ。

 戦後日本では、GHQ改革により、戦前の価値観の否定が進んだ。今で言うところの「キャンセルカルチャー」である。そして現在、米国が「キャンセルカルチャー」の津波に襲われ、これまで親しんできた常識が次々と破壊されている。その激流は、コロナ禍でライフスタイルの変化を余儀なくされた日本をも呑み込もうとしている。

 そんな激動の時代に、古い価値観の権化のように扱われてきた旧日本兵の遺品が、かつてない勢いで発見され、日本に還流している。これは示唆に富む現象ではないだろうか。

不思議な現象が起こる理由とは

 死者の霊が戻ってくると信じられるお盆に、ケイコとその家族に起こった奇跡の体験から広がりを見せたオボン・ソサエティ。その活動を通して、今までの常識がキャンセルされようとしている日本に、英霊たちが戻ってきている。

 彼らは、何を語ろうとしているのだろうか?

 ケイコは語気を強めてこう言う。

「日本以外の世界で日本がどう見られているのかを日本人が知ってくれさえしたら、頭を下げて、悪かったと卑下だけするようなことはなくなるのです」

 レックスも言う。

「元米兵たちが、どれほど日本に対する畏怖の念を抱いていたことか。旗の返還事業を通して分かるのはそのことです。彼らは日本兵を恐れ、そして尊敬していたのです」

 私には、パンデミックによって増えた寄せ書き日の丸返還という不思議な現象が起こるのは、前代未聞の社会変革の流れの中で、英霊たちが私たちに「失ってはならないことがある」ことを思い起こさせようとしているからではないかと感じられてならない。

 それが一体何なのかは、各々が吟味する必要がある。

(文中敬称略)

石井希尚(いしいまれひさ)
作家。1965年東京生まれ。93年渡米し、カウンセリング、聖書学を学び、牧師に。また、ゴスペルと“大和魂”を融合させた音楽一座「HEAVENESE]を率い、国内外でライブ活動を展開。近年もYouTubeで毎週動画を配信するなど精力的に活動を続ける。著書に『この人と結婚していいの?』、小説『逢瀬』他。

週刊新潮 2021年12月9日号掲載

特集「「日米開戦80年 コロナで英霊が帰国ラッシュ!? 『武運長久』の戦争遺品『 寄せ書き日の丸』返還の数奇な運命」より

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