日本兵が戦地に携行した「寄せ書き日の丸」が“返還ラッシュ”の理由 遺族と返還者が感じる“癒やし”

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300ドルほどで「寄せ書き日の丸」を購入

「僕は軍隊に入ったことがないので、この旗について語る資格なんてないと思っていたよ。でもこの機会を与えられたことをとても嬉しく思っている」

 リモート取材の画面越しにそう語る彼は、自分が何か良いことに関わっていると感じている独特な高揚感を含んだ声で話してくれた。

 彼は歴史マニアで、かつ、元々日本文化に対するリスペクトを持っていた。ある日、テレビで観た日本兵についてのドキュメントで「寄せ書き日の丸」の存在を知り、オークションサイトで検索して見つけた旗の一枚を購入した。

「300ドルくらいだったかな。もう随分前だから正確な額は忘れたけど」

 売主の父親は、サイパンで戦った海兵隊員だったらしい。それ以外のことは知らないという。

 旗を購入したアロンは、その芸術性や、それが実際に兵士の所持品だったという事実に興奮し、長らく壁に飾っていた。

「まだ20代の頃だったからね。背後にあるストーリーには関心がなかった。でも、年齢を重ねるといろいろ賢くなるだろ」

祖父のピストルがきっかけで返還を決意

 彼が旗の返還を思い立ったのは、自分の祖父が他界したことがきっかけだった。

 祖父はガダルカナルで日本兵と戦った。滑走路を造る部隊に属していたという。祖父は戦争のことをあまり話さなかった。アロンの手元には祖父の遺品がある。特別なものだ。祖父が戦場に持っていったピストルで、祖母が18歳のときの美しい写真がグリップ両面に埋め込まれている。いつもそれを見ては、かっこいいなと思っていた。

「祖父が死んだとき思ったんだ。もしこのピストルが、他の人の手に渡ってしまっていたら……」

 それが、旗の所有者だった人の気持ちに触れた最初の瞬間だった。

「この旗は持ち主の元に帰るべきだと思ったんだ」

 彼は続ける。

「僕にとってこのピストルは、ピストルだから価値があるんじゃない。祖父と繋がるものだから価値がある。それと同じだと思ったんだ」

 そしてこう付け加えた。

「もし、旗の持ち主がわかったら、祖父なら誰よりも先に自分で返しに行くと言ったと思う」

 ちょうどこの原稿の最終校正をしている真っ只中、アロンが所有していた旗の持ち主が見つかったという嬉しい報せが届いた。彼は、自らすぐに日本に飛んでいきたい、と熱く語ってくれた。

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