大阪「LGBTの駆け込み寺」に集う人々 56歳で性別適合手術、柴谷住職が目指すもの

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 総選挙だった2021年10月31日、大阪府守口市の住宅街に佇む小さな「性善寺」(大徳山浄峰寺)で炎が赤々と燃え上がる「護摩焚き供養」が行われた。終了後の柴谷宗叔住職(67)の法話が面白い。「讃岐うどんは有名ですが、香川県は雨が少なく米が育ちにくい。小麦を育てた。うどんが発達した。うどんの製法を中国へ渡ったお大師さま(弘法大師)が伝えたんです」。

「羊羹は羊の字を書く。もともと中国では羊の肉を煮て冷えて固まるに煮凝(にこごり)を食べていたのが羊羹。ところがお坊さん(僧侶)は肉食が禁じられているので、似たような寒天を使った。おいしくないので餡(あん)やらを入れて羊羹ができたんです。だから中国の人に日本の羊羹を食べさせたら、『こんなん、羊羹と違うわ』と言うでしょうね」。

「キリスト教やアラーの神のイスラム教は一神教。だから喧嘩が起きる。仏教も神道も多神教。多くの日本人はキリストさまもたくさんの神さまの一人と思っている」。

 法話は政治から経済など様々な話にも広がる。

「ここは何でもありのお寺です。仏さんの写真撮るのも自由。相談事があったら私の所へ来てください。住職カレーを用意しましたから食べて歓談してくださいね」。この日は看護学校の女子学生数人が実習に来ており華やかだった。柴谷住職手作りのカレーはかなり辛いがおいしい。

 席は一杯だ。長らくコロナの感染防止でほとんど集まれず、久しぶりの盛況だった。ここは性同一性障害など「LGBT」といわれる性的少数者の「駆け込み寺」だ。

 笑いも絶えなかった集まりで参加者に話を伺った。

「苦悩が癒された」という参加者たち

 氷山紫(ゆかり)さんは40歳の会社員。職場では本名の男性名。「男として勤めている会社ではこんな格好はできません」と少し女性っぽい服装を着ていた。守口市の公報で性善寺を知った。柴谷住職は同市主催の講演もしている。「初めての参加ですが家からも歩いてこられるんですよ」。男として育てられ、違和感があったが「父親は狂犬のようなもので理解など何もなく蹴る、殴る、投げ飛ばすでした。母に対してもDVです」と話は穏やかではない。

 子ども服を買う時も母は「なんでこんな女の子みたいなもん選ぶんや、男の子やったらこっちや」とほしくない服を渡された。氷山さんはいわゆる「Xジェンダー」と言われ、性の自認が身体的性に関わらず男にも女にもあてはまらないケース。「ある時はこっち、ある時は反対に振れるんです」。性別適合手術(SRS)は必要ない。

「専門学校を出て働いたが職場は男の競争社会でしんどい。女性の方が話しやすく趣味も合う。会社では女性っぽい部分は見せず完全に男です」と話す。高野山も好きで毎年行くそうだ。

 高田裕也(仮名)さんは29歳。「真言宗などに興味があって、高野山に行ったりしました。高野山大学で柴谷先生を紹介されて2021年3月ごろから来ています。柴谷先生も同じような経験されてるし、新聞記者もされて世情もよく知ってるし」。戸籍の性別変更はこれからで、SRSのために貯金中だ。女性として育てられたが違和感があった。

「セーラームーンの人形なんかもらうのが嫌でした。中学生の時に一度、相談した母親は『自分が育てたからわかるけど、あんたにそんなケ(性的指向)は絶対ないはずや』と取り合ってもらえなかった」。中学も高校も女子生徒として生きたが、人間関係にも苦しみ高校を中退し、高卒認定の資格だけ取った。「職場ではセクハラに遭ったりして、4年くらい引きこもりました。正社員になった仕事もあまり続かなかった」。「恋愛対象が男だと決めてかかられて『ジャニーズやったら誰が好き?』とか、『誰君と付き合ってるの?』とか言われるのが嫌でした。自殺したいこともあった」。男から言い寄られたり、ストーカーされたこともある。

 性善寺では同じ悩みを持った人の存在を知り、そんな苦悩が癒された。「15人にひとりくらいはそういう人(性同一障害者)がいると言われていても、隠して生きているんです。久しぶりに大勢集まってまた新しい出会いができるかな」と高田さんは明るかった。

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