京王線内の殺人未遂事件で注目された鉄道車両内の安全と「貫通路」について考える

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扉を開けることができなくなってしまう危険

 貫通路の幅が客室で最大限確保可能な188cmに程遠い理由は考えるとすぐにわかる。車端部の腰掛けに人が座っていたとすると貫通路を通ってきた人とぶつかってしまうので、通常の営業では使いづらいのだ。

 ちなみに身長174cmの筆者の場合、腰掛けに座ったときにせり出した膝頭の長さは16cmであった。腰掛け部分の幅は壁を含めて44.5cmで、車両の幅277cm-(腰掛けの幅44.5cm×2)-(膝頭16cm×2)から、筆者基準で恐縮ながら最大限確保できる貫通路の幅は156cmとなる。

 それでもこの寸法ならばまだ2列で避難できることになるものの、果たして大丈夫だろうか。今日、車両を設計するうえで、車体の妻面(つまめん=他の車両と面する面)には引き戸を設けたほうがよいとされている。

 引き戸は火災が起きたときに炎が隣の車両に伝わるのを防ぐ。また列車が脱線して連結されていた車両どうしが離れるほどの衝撃が生じたとしても、乗客が貫通路から外に放り出されないように守ってくれる。こうした安全性を考慮してだ。

 普段もよいことがあって、貫通路の引き戸のおかげで寒い日には前方の車両から後方の車両へと冷たい風が吹き抜けず、車内の温度を保ってくれる。

 なお、国の基準では車体妻面に取り付ける貫通路用の扉は先頭車両の最前部、最後部の車両の最後部を除いて引き戸としなければならない。前後に開くタイプの開き戸にすると、隣の車両の車体妻面にぶつかるのでまず採用されないのでよいであろう。

 客室側に開く場合、大勢の乗客が一斉に避難しようとして貫通路に押し寄せた際に、扉を開けることができなくなってしまう危険があるのだ。実際に過去にこのようなつくりのために火災事故で大勢の犠牲者が出たことがある。

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