京王線内の殺人未遂事件で注目された鉄道車両内の安全と「貫通路」について考える

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避難経路におけるボトルネック

 踏切のうち、自動車や歩行者の通行量が多く、渋滞や踏切内での滞留が発生するものをボトルネック踏切という。瓶上部の狭いところに液体が詰まりやすいことになぞらえての呼び名である。貫通路はまさに車内の避難経路におけるボトルネックと言ってよい。

 事件の起きた京王線の特急に用いられていた8000系という車両の図面を見ると、車体の幅は277cm、両側面の壁を除いた客室の幅は256cmあり、側面に背を向けて座る腰掛け部分は壁を含めて44.5cmずつであった。

 すでに腰掛けに座っていた乗客はいなかったので、避難に使用できる通路の幅は最大限に確保でき、188cmとなる(277-44.5×2)。1人の人間が比較的余裕をもって歩行できる通路の幅は75cmと言われるから、人々が2列になって逃げていたのも合点がいく。

 実際の8000系の貫通路の幅そのものは80cmだが、引き戸(横にスライドする扉)の取っ手部分に引き残しがあって有効幅は65.3cmしかない。こうなると通ることのできるのは1人だけだ。2列で走って逃げてきたとすると、貫通路の手前でどちらか片方の列の人は立ち止まらざるを得ない。こんなに狭くて果たしてよいのかと心配になる。

 国の基準では、車両とトンネルとのすき間が40cm未満の区間を走る車両の貫通路は有効幅60cm以上、それ以外は55cm以上あればよいとされている。京王電鉄の8000系は65.3cmしかないと記したが、基準に反してはいない。そうは言っても、車内を逃げまどう羽目に陥った方々にとっては、もう少し広くてもよいのではとうらめしく思いたくなるであろう。

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